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第59話 家族

 相変わらずの長野さんのおしゃべりには呆れるが、変な話、オレとヨシヒサ、いや、「ミク」との間では、家族の事が話題にのぼることは無かった。 オレは、別に父親の事を隠すつもりはないけれど、聞かれもしないのに、「オレの親父は自殺したんだ。」なんて言うつもりはない。 だから、ミクの亡くなった母親の事も聞かないでいた。 お互いに、もう済んだ過去の話をしたところで仕方がない。それよりも、今日の晩御飯をどうするかの方が重要だった。 「あ、内田くん。今日の杉本のおじいちゃん、長野さんじゃなくて内田くんを指名してるんだけど、どうする?」 奥で、事務をする高木さんに訊かれる。 「いいですよ、オレ今日は車両の清掃になってましたから、長野さんに変わってもらいます。」 「じゃあ、お願いね。」 「はい、分かりました。」 そういうと自分のパスケースを用意した。 杉本さんは80歳位の男性で、車いす生活をしているんだけど、時々車で遠出をしては海岸へ連れて行って欲しいと頼まれていた。 子供とは離れて暮らしているから遠慮があるのか、年に3~4回はうちのサービスを利用してくれる。 「近くの他人」の方が、気が楽なんだろう。 人情もお金で買う時代になったんだろうか・・・・・ そう思うと寂しくもある。

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