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第60話 お土産
杉本のおじいちゃんを自宅に送り届けると、奥さんが「これ、よかったら食べてね。」と言って袋いっぱいの梨をくれた。
「え、…あ、…いいんですか?すみません、有難うございます」
オレは両手で受け取ると、お礼を言う。
「いいのよ、あたし達には食べきれないもの。あ、…これは内田くんに差し上げたんだから、会社のひとには内緒。」
そういうと、奥さんはニッコリと笑った。
「はい、……有難うございます。頂きます。」
オレは内心困ってしまう。有難い事だけど、オレも食べきれないんだ。
会社の人に言うと、オレばっかり貰っているって思われそうだしな・・・
それに、ちゃんと料金を支払ってもらっているのに、こんなものまで頂いたら悪い気がする。
「では、これで失礼致します。お元気で。」
「はい、内田くんもね。」
いつもの挨拶を交わすと、車に戻って助手席に梨の入った袋を置いた。
梨のいい香りが鼻にスッと入ってくる。甘くておいしそうな匂いが車の中に充満した。
- そうだ、途中で一旦家に寄ればいいんだ。ミクにも食べてもらおう。
藤谷家は会社へ戻る途中にある。そうだった・・・
車が揺れるたびに袋がガサゴソと鳴って、傷にならない様、俺は静かにハンドルを切った。
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