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第65話 云えないよ

 自分の席に戻ると報告書を記入しようとしたが、長野さんが横にぴったりくっついているので気になる。 「なんですか?」とオレが聞けば、「ちょっとね。」と、意味ありげに言った。 長野さんは、なんにでも首を突っ込みたがる。まあ、その分依頼者の些細な変化に対応できるんだけど.....。 「内田くんさあ、あの子とうまくやってる?!ちょっとわがままそうな子じゃん。大丈夫?いじめられてない?!俺で良ければ相談に乗るからね!」 うるさいぐらいにオレの横で言うから、じっと顔を見てみた。 瞳の奥に、興味深々だと言う怪しい光が覗いている。ここでオレが何か言えば、絶対勘ぐって色々な事を聞いてくるんだろう。その手には乗らないさ。 ・・・それに、さっきの光景は口が裂けても言えない。  まあ、長野さんもプロだし、この会社以外の人に話すような事は無いと思う。それでも、彼の人権にかかわる事だ。オレは固く口を閉ざした。 「お疲れ様です。もう帰ってもいいんでしょ?!早く帰ってデートでもしてください。」 机の上の報告書に目をやりながらも、長野さんにはそう言った。 「そうだね!明日は休みだし、久しぶりにデートでもすっかな~。」 軽く伸びをすると、オレの横で立ち上がり帰る用意を始める。 「頑張ってください。お疲れ様でした。」 「おう、じゃあね。内田くんもたまには女の子と合コンしなよ!」 「・・・・・」 オレの返事は聞くまでもなく、長野さんはさっさと出て行った。 - まったく・・・あの能天気さが羨ましいよ。 報告書の一文字がなかなか進まないオレは、早く帰りたいのに帰る事が出来ないでいた。 ペンを持ったままの指が、空欄の白紙の上でじっと固まる。 - ミクの顔、普通に見ることができるかな・・・・・

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