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第76話 これは父性?
「お昼は、さっきのサンドイッチ食べていいの?」
「いいよ、足りなきゃチャーハンかオムライスでもするか?」
「うん、でも悪いじゃん。内田さんのご飯無くなっちゃうよ。」
「大丈夫だ、家賃払ってないんだから、ミクの飯ぐらいは・・・」
オレが笑いながら言うと、「そう?なら、ご馳走になる。」と言って微笑んだ。
昨日と今日とで、この一週間分の溝が埋まるぐらいに親しくなれた気がする。
ひとり暮らしと変わらないまま、何の会話も無いままじゃ、ここに居る意味もないもんな。せめて、一人じゃないという安心感ぐらいは与えてやらないと・・・。
サンドイッチと一緒にオニオンスープも付けてやると、目を細めて喜ぶ。
そんな顔を見ていると、さっきまでのドキドキは無くなり、むしろ子供を見る父親の様な感情が沸き起こる。親子になるには9歳しか離れていない。そう思うと、隆哉さんがミクを見ている目線もこんな風だったのか、と思った。
15歳の時から、ずっとこうしてミクを見つめて来たんだろうな。
「ごちそうさま。あ、そうだ・・・風呂のお湯を入れるから、しっかり浸かるといいよ。筋肉もほぐれるでしょ!」
ミクは言うなり風呂場へと向かう。
「いいって、、、」と、声を掛けるが聞こえないらしい。
ぼんやり椅子に座りテーブルに頬杖をつけば、やっとこの家に慣れたような気がしてきた。やっぱり家っていうのは、人が住んで会話があって声が響き渡らなきゃいけないんだな、と思う。
隆哉さんと暮らした5年の間、アイツはちゃんと笑っていられたのかな・・・
・・・なんて、オレが思う事でもないんだけど。
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