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第82話 不安な気持ち

 まだ頭がぼ~っとしていたが、台所へ行くと勝手口の所にミクが座っていたので声を掛ける。 「・・・どうした?誰か待ってるのか?」と聞いてやるが、首を振るだけで返事はなかった。 オレは冷蔵庫からもう一本ミネラルウオーターを取り出すと、キャップを開けて飲み始める。座ったまま動かないミクが気になって、そっと隣に行くとボトルを頬に当ててやった。 一瞬冷たそうに顔をよけたが、まだ言葉は発しないまま。 「オレが驚かせてしまったから・・・・ごめんな。」 そう言って、ミクの隣にしゃがみ込んだ。 「ううん、いいんだ。・・・ちょっと隆哉さんの事思い出しちゃっただけだから。」 「ああ・・・隆哉さんの妹さんから、何か連絡あったか?」 膝を抱えて座り、ミクの方を向いて聞いたが、俯いたままのミクは又首を振るだけだった。 「もう、多分会えない・・・様な気はしてる。俺が病院に行くことは禁じられてるから、亡くなったら知らせてくれるとは思うけど・・・」 オレは不思議に思っていた。 あの日、自分の家族が待つ田舎で、最後を過ごしたいと言っていた隆哉さん。 ミクの母親を入院させてから、ずっと家族を犠牲にしてまでミクを守ってきたんだろう。 なのに、自分の命が短いと知ったら、家族の元へと帰ってしまった。 あんなに大事にしていた甥っ子をあっけなく手放すなんて・・・ せめて少しの間、ミクを明子さんの家に置くとか考えないものかな。 オレなんかに、気にかけてやってくれなんて変だよ・・・。 「隆哉さんとミクって・・・」と言いかけて、言葉を切った。 血のつながりが無いという事は、隆哉さんから聞いていたが、ミクが知らないかも知れなくて......。 「隆哉さんは、俺の初恋の人なの。・・・変でしょ?!」 首だけを傾げてオレを見ると言った。

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