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第84話 国の決めた事

 車を降りて事務所に向かう途中、同じく出社してきた高木さんと一緒になった。 「おはようございます。」 「おはよー、…あ、昨日は梨を有り難うね!子供達喜んだよー。」 「そうですか、良かった。」 オレは、杉本のおじいちゃんから貰った梨を高木さんに分けてあげた。 風呂場の一件のあとは、なかなか夕食を一緒にする事もなくて、せっかくの梨を腐らせる訳にもいかないし、買いすぎてしまったとウソを言ってあげたんだ。 ひとり更衣室に行くと誰も居なくて、一人でのんびり制服に着替える。 朝から病院への出動が決まっていて、白の制服に袖を通すと、気持ちも引き締まった。 今週は既に何件か予定が入っていて、病院からの転院が3件。 今は、3ヶ月したら退院して家での療養にするか、もしくは別の病院へ移るかするらしい。 同じ病院で治療を続けるのは難しそうだった。 身体を起こせない人を運ぶのは、正直辛い。このまま置いてあげたらいいのに、と思うが国の決めた事。俺たちの感傷なんて分かるはずもない。 それでも、治療を待つ人がいるのも事実で、少しでも回復したならベッドを空けてあげなきゃならないんだろうな、とも思う。 オレが高齢者と呼ばれる頃には、いったいどんな世の中になっているのか不安だ。

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