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第85話 アレ?なんで?

 そんな事を考えながら事務所に入り、長野さんがいたので近づいて挨拶をした。 「おはようございます。今日は、自分が運転しますから。」と言うと、「おはよ。安全運転でお願いします。」と言われ、肩をポンと叩かれた。 「・・・はい。大丈夫です。」 オレは、心の中で(長野さんよりは、うまいですから!)と思いつつも、口には出せない。気を悪くされてもいけないし・・・ 「じゃあ、今日の打ち合わせするから。」 長野さんが、手渡した資料を指しながら、気を付ける点を口に出して読み上げる。 基本はだいたい同じなんだけど、患者さんの症状によっては変える部分が出てくる。 細やかなサービスはもちろん、同乗する家族の方を不安にしてはいけない。それに、短時間で搬送できるように、道路の状況を把握することも仕事の一つだった。 一通りチェックすると、病院でもう一度看護師との打ち合わせもあるから、早めに出る事にした。 朝の時間帯は、サラリーマンや学生たちも動く時間で、自転車に乗った人が飛び出して来たりして危ない事もある。 狭い道路に差し掛かるところは、倍の注意が必要だった。オレたちが加害者になったんじゃ話にならないもんな。 「やっぱり、内田くんの運転は静かだね。」 助手席に座る長野さんが言った。 「そうですか?!・・・ありがとうございます。」 ちょっと照れくさいが、前から良く言われていた事でもある。 「なんか、性格って運転にも出るんだよね。身体のわりに細やかなハンドルさばきで、そのくせ揺れが無い。」 「やめて下さいよ、オレに上手言っても何も出ませんから。」 ホントに照れる。 「俺、内田くんの助手席にならずっと座っていたいな~。・・・って、男に言われてもな。ハハハ・・」 軽快に笑う長野さんの横で、少しだけドキッとしたオレ。 今、助手席に座ったミクの事を頭に描いてしまって、自分自身で軽くパニックを起こしていた。 - ・・・・うそだろ。・・・なんで?

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