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第98話 愛おしさ

 救急箱を手に、「入るぞ。」と言って襖を開ける。 ベッドにうつ伏せになり言葉は発しないが、見れば靴下の踵から血が出ているのが分かった。 「・・・怪我してるから、ちょっと靴下脱がすからな。」 そう言って足首を掴むと、靴下に手を掛けた。 破片が落ちると危ないので、ゆっくりと脱がせそのままくるんでビニール袋に入れる。 消毒をしてやり、キズ薬を塗ると絆創膏を貼ってやった。 「ミク・・・」というと、ベッドに腰掛けてうつ伏せのままの頭に手を置く。 まあるい頭を撫でてやると、オレの中に芽生えたのは、愛おしむ気持ちだった。 昔、施設にいたときに感じていた感情が、今さらながらに呼び起こされる。虐待を受け、躰も心も傷ついた子供たちが身を寄せ合っていた頃。 あの頃は、何の力も持たなかったオレ。だから何も出来なかった。 でも、今のオレは大人だ。少なくとも、目の前で泣くコイツの事は守れるかもしれない。 そう思ったら、さらに愛おしさは増してくる。指先にこもった熱は、ミクの顔をオレに向けさせ、潤んだ瞳の奥に宿る光を目にしたとき、吸い寄せられるようにオレの唇はミクの頬へと近づいていった。

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