99 / 153
第99話 教えてくれ。
ベッドの上で振り返ったままのミクは、オレの唇をじっと見つめる。
何かを期待するような眼差しがオレの忘れていた感情を呼び起こすと、そのままミクの頬にキスをしてギュっと抱きしめた。
「......内田さん、......」
一言だけ声を発するが、オレの上体を跳ね除ける事はしない。
そのままじっとして、オレが力を緩めるまで胸に顔を埋めていた。
「ゴメン、.....つい。」と謝ると、ミクの上から離れたオレは、腰をベッドに降ろしたまま自分の膝に置いた手を握り締めた。
- 何をしようとしていたんだ・・・
自分でもよく分からないが、今のキスは何の意味を持っていたのか・・・
ゆっくり立ち上がると、オレは足元に置いた救急箱とビニール袋に入れた靴下を持って部屋を出た。
その後ろ姿を見ていたのかどうかわからないが、ミクも言葉を出さないまま。
廊下を歩きながらも、自分の胸に宿る愛おしい気持ちはどんどん大きくなって、これが同性の相手に向ける気持ちなのか、と不思議に思う。
今までこんな気持ちになった事はないし、結婚を考えた彼女にも抱いた事はなかった。
距離の取り方が分からない.........。
なだめる、のとは違うような、でも、ミクの事を愛おしく感じるのは事実。
台所へ行くと、流しの食器を片付けて自分の部屋へと戻った。
なんだか変な一日だったな。ごろりと畳の上に横たわると、大の字になって天井を眺める。
視線の先の綺麗な木目は所どころ人の顔の様にも思えてきて、まるで自分の内面を覗かれているような気分になった。
「ノンケか・・・・・」
ユタカの言葉が頭に浮かんでは消え、誰かに教えてもらいたい気持ちになる。
いったいオレはどうしたんだ?!
ミクが、背中の傷にとらわれるように、オレも過去の出来事に囚われているんだ。
オレには、何も守れない。
呆然と見ているしかできない。そんな自分が歯がゆくてたまらないのに........。
ともだちにシェアしよう!