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第104話 仕事として

 事務所に入り、壁に掛けられたホワイトボードの予定表を確認する。 今朝は、9時に岡田さんというお宅から病院への搬送を依頼されていた。 行き先を知ってあの日の事が蘇るが、精神科の病院への搬送はこれで3度目。 初めてはミクの母親で、2度目は20代の女性だった。 同年代の娘を無理やり連れて行くのは正直気が引けて、この仕事を続けるのはキツイとも思った。それでも、家族の依頼があって病院も受け入れを許可しているのなら仕方のない事。オレは仕事としてやらなければならない。 「岡田さんの息子さんって、学生ですか?」 今日一緒に出動する山岡さんに聞く。 「ああ、大学生だってさ。かなり親の方がまいっているらしい。」 「そうなんですか.......。男の子は力もあるでしょうね。暴力とかあったんでしょうか?」 「警察も入ったらしいけど、結局は民事だし家庭内で何とかするしかないんだろう。俺たちの仕事もどんどんこういった案件が増えるよ。」 顔を曇らせながら山岡さんは言った。 オレもそう思う。この5年の間だけでも10件以上はそういう類の依頼だった。 「まずは自宅前で待機する事。俺と吉岡が息子を説得するから、ダメそうだったら内田くんも来て。ストレッチャーには拘束バンドのセットをしておく事。使いたくないけど、暴れたら仕方がない。」 「はい。」 オレは、いささか緊張してきた。 下手すると痛手を負うから気は抜けない。どうか素直に、山岡さんに従ってほしいと願うばかりだ。

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