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第105話 叫ぶ声

 岡田家の玄関前で待機するオレは、遠巻きに眺める近隣の住民の視線を一気に浴びていた。何だか様子がおかしいと思った近所の人たちが、ストレッチャーをジロジロと見る。 「内田くん!!持ってきて!」と叫ぶ山岡さんの声が響くと、オレはストレッチャーを玄関の開いた扉に着けた。それから拘束ベルトの準備をすると自分の手をギュッと握りしめる。 『やめてくださいっ!!病院には行きません!・・・離してくださいっ!』 叫ぶ息子の声が家の外へと響く。 「失礼します!」 オレは山岡さんが押さえた足をベルトで巻くと、ストレッチャーに固定した。 肩を押さえた吉岡さんが、起き上がろうともがく息子にのしかかっているが、一瞬の隙をついてからだを捻った拍子に、息子の頭がオレの顔面に当たった。 オレは痛さより、落ちない様に腕でからだを押さえつけるのに必死だった。 吉岡さんとオレとで、上半身を固定するとすぐに車に乗り込む。 同乗した家族は母親がひとり。 喚き散らす息子には顔を向けずにじっと下を向いている。 「内田さん、唇切れてますよ。」 吉岡さんがそう言って、ティッシュペーパーを束にしてよこしてくれた。 「あ、ありがとうございます。」 オレはそれを口に当て乍ら、ゆっくりとハンドルを切ると病院に向かって走り出す。

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