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第106話 あの日の事が・・
いつもの様に病院で完了の手続きを済ませると、オレたちは母親の前に並んだ。
「それではこれで失礼致します。お大事にしてください。」
そういうと3人で深々とお辞儀をする。
「ありがとうございました。助かりました・・・・ホントに。」
申し訳なさそうに頭を下げる母親は心の底から安堵したようだったが、オレはこれから来る試練を受け止められるのかが心配になった。
病院へ入れて終わりじゃない。
周囲の目を気にしながら暮らすのは辛いだろうな。そんな事を思い乍らオレたちは会社へと戻って行く。
会社に戻る車の中では、男三人が無言のままで暗い顔を並べていたが、耐えきれず第一声を発したのは入社4年目の吉岡さんだった。入社はオレの方が早いが、歳は吉岡さんの方が4歳上。
「こういうの、メンタルやられますね。仕事とはいえ気分のいいもんじゃない。」
「吉岡は、まだ2回目だからそう思うんだよ。・・・あ、そう言えば内田くん、前にも顔怪我させられた事あったなぁ。あれって、今の大家さんの母親ン時だったっけ?!」
山岡さんが運転するオレの顔をミラー越しに見ながら話しかける。
「はい、なんか間が悪いですね、オレ。」
「すみません、自分がしっかり押さえられなくて・・・・」
申し訳なさそうに吉岡さんが言うから、「いや、オレの方が悪いんですよ。咄嗟に避ければいいものを・・・鈍いんですかね?」
「身体がデカイからなぁ、仕方ないよな!当たりやすいんだよ。」
山岡さんの言葉でプッっと噴き出すと車の中の雰囲気は少しほぐれたが、オレの意識はミクへと向かっていた。5年前のあの日から、どうやって暮らしてきたんだろうか.......。
隆哉さんに頼りながら5年の歳月を過ごしてきたのに、隆哉さんがあんな事になって、又心細い思いをしたんだろうな。
同性を好きになって振られ、ユタカと知り合って関係を持っても自分をさらけ出す事は出来なかった。
ミクの心の傷が癒える日は来るんだろうか......。
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