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第113話 年上キラー?
「内田さん、草取りしてたの?」
オレのいで立ちを見て聞いてくると、オレの皿も自分のと重ねて持ってくれた。
「ああ、この前半分残したからな。今日やってしまおうと思って・・・」
「なら、俺も手伝うよ。あと千葉も!」
「・・・え?なに・・・草取りすんの?!」
千葉くんが、目を丸くして驚いている。
「そう、終電逃して泊めてやったし、食事まで付けたんだからな!」
もう千葉くんに反論の余地はなく、ミクの言葉に従うしかなかった。
持って生まれた気質というのか、ミクの周りの人間は、オレも含めてミクには従ってしまう気がする。さっきまでの頭の痛さは少し和らいで、三人での草むしりを想像したら笑えてきた。
昼食を終えてしばらく休むと、三人で庭に降りて行った。
オレは新しい軍手を用意して二人に渡す。
するとミクが、「あっ、カマを戻すの忘れてた!」と、慌てて玄関の方へ走って行った。
その姿を目で追いながら、千葉くんと足元の雑草を引き抜く。
「ミクって可愛いっしょ?!」
オレに向かって言ったのか・・・と、千葉くんに振り返れば、満面の笑みを浮かべてオレを見ていた。
「ああ、そうだな・・・子供っぽいっていうのか・・・」
オレが言葉を濁すと、「内田さん気を付けて下さいね!アイツ、年上キラーだから。」と言って、またまたニヤッと笑った。
ユタカもそんな事を言っていたっけ。
年上キラーって言葉じゃなかったけど、年上が好き、とか・・・
「ミクが年上キラーっての、どうして分かる?」
「だって、大学の助教授とかも手なずけちゃってますよ。なんだろう、変なフェロモンまき散らしてるのかなぁ・・・小さい時からそんなところがあったし。」
「小さい時って・・・千葉くん、ミクの小さい時を知ってるのか?」
近所に住んではいないんだろうに、どうしてなのか気になった。
「小学校の6年生まで、僕の家はこの近くだったんですよ。同じ小学校に通ってて。」
「ああ、そうだったのか。」
「ミクの両親、小3の時に離婚しちゃって母親と二人暮らしだったの知ってます?」
「いや、父親の事は話しに出なくて・・・聞いたらいけないのかと思ってた。お母さんの事は、なんとなく・・・知ってる。」
そう言うと、千葉くんはオレだけに聞こえるように
「アイツ、多分お母さんに虐待受けてたんじゃないかな・・・健康診断とか、体育の授業とか、着替えたりするときはミクだけ保健室に行ってて、水泳の授業は受けてなかったもん。」
「なんで?」と、知ってはいたけど聞いてみた。
「取っ組み合いのけんかをした奴が、ミクの背中見たって言ってて、傷だらけだったって先生に話したら、分かっているようだと言ってた。なんか、先生にも特別扱いされてたから・・・年上キラーでしょ?!」
「・・・」オレは、なんとも返事が出来なくて、黙ったまま足元の草を抜いた。
やがて長いカマを手にしたミクが戻ってくると、オレたちの話もそこで終わった。
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