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第114話 張り詰めた空気
今でこそ、児童相談所の話題を耳にすることがあるけれど、昔はほとんど公にはならなかったんじゃないのかな。みんな分かってはいても、声を上げる人は少なかったはず。
先生も、家庭の事に口出しできないだろうし、躾と言われたら何も言い返せない。
目の前で笑いながらカマを振るミクを見ると、なんだか切なくなってきた。
が、もう昔の話。母親は亡くなり、父親は分からないけど、ミクはここで一応元気に暮らしている。本当は、隆哉さんと穏やかに暮らしたかったんだろうけど・・・
「内田さん、手が止まってるよ。カマ貸そうか?指が痛いでしょ!」
オレの泥だらけの軍手を見るとミクが言った。
「ああ、そうだな。ミクの腕じゃ危なっかしいしな。ちょっと貸してみろ。」
そう言ってカマを受け取ると、オレはザッ、ザッ、と長い草を刈っていく。
三人で刈ったから、ずいぶん見違えるほどの庭に生まれ変わって、高そうな庭石も威厳をもって庭に鎮座して見えた。
「すごいな。昔の庭に戻ったみたい。」と喜ぶミクの顔を見て、オレも嬉しくなる。
そろそろ日も落ちかけて、オレたちはそれぞれにシャワーを浴びると居間でくつろいでいた。千葉くんは夕食も食べずに自宅へと戻ってしまい、オレとミクだけが居間でテレビを見ている。
二人の間に流れるまったりとした空気とは別に、何処かピンと張り詰める部分もあって、互いに交わす言葉を選びながら同じ部屋にいた。
その時、リーン、リリリーンと、この家の電話が鳴る音をはじめて聞く。
居間の片隅に置かれた電話を見るが、ミクがそれを取りに行かずにじっと見たままなので、オレは変わりにその受話器を取って耳に当てた。
ミクと視線を交わしながら、「はい、藤谷ですが。」と言ったが、電話の向こうで泣きそうな女性の声が聞こえて、オレの胸はザワザワとさざめき立った。
・・・この声は、・・・
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