119 / 153

第119話 華奢な背中に

「ゆっくり眠れたかしら?」 明子さんがみそ汁をよそいながら聞いてくれるので、「はい。」と答えたが、起こされるまで気づかないで、ミクとくっついて寝ていたのを目撃されてしまい焦った。 「ミクは?食べないの?」 「いらない・・・」 明子さんに返事をして、居間の方で子供と遊ぶミクは少しやつれているようだった。 気持ちが沈んで食欲が無いんだろう。 「ミク、みそ汁だけでも飲んどけよ。」 オレは声を掛けるが、ううん、と首を振って来ようとはしない。 「おにぎり置いておくから、後でお腹が減ったら食べなさい。」 そう言うと明子さんは仕度をして出かけて行った。 隆哉さんのお通夜の準備があるので、明子さんとご主人は朝から忙しそうで、オレとミクが家で子供の面倒を見る事になった。 残り少ない命だったと、気持ちの中で整理はついているんだろうけど、実際に顔を見てしまったらいろんな思いが込み上げてくる。後悔もあるのかもしれない。 「にぃに、こぇであちょぶ?」 明子さんの息子の夏樹くんは、屈託のない笑顔でミクにおもちゃを差し出した。 それを受け取ると、微笑みながら一緒に遊んでやるミク。 そんな姿を見ていると、オレの方が切なくなってきた。 ミクの周りから大事な人がいなくなり、どんどん孤独になっていく華奢な背中を見るたびに、オレは抱き締めたい衝動にかられる。 力強く抱きしめて、ひな鳥を抱く母の様に大きな羽で包み込んでやりたい。 そんなことを考えるオレは、おかしいんだろうか・・・・

ともだちにシェアしよう!