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第120話 冷たい眼。
昼まで夏樹くんと遊んでいたが、眠くなったのか夏樹くんがぐずりだした。
「ぅ..うぇえ~ん......ママぁ.....」
ついに母親がいない事で不安になったのか、おもちゃを放り投げて泣き出してしまった。
「夏樹くん、ほらっ、ぞうさん。」
ぞうのぬいぐるみでおどけてみせるが、「ううぇ~ん、ううぇ~ん・・・」と泣き止まない。慌てるオレをよそに、ミクはじっと夏樹くんの泣き顔を見たまま動かず。
「ミク、なんとかしろ!なんかジュースとかさ、・・・」
「....泣かせておけばいいんだ。」
ぽつりとミクが言って、ソファにドカッと腰を降ろす。
「え?・・・おい、どうして。」
焦るオレが夏樹くんを抱っこしようとすると
「泣いても、誰も何もしてくれない事が分れば、諦めて泣き止むよ!」
そう言ったミクの表情はものすごく冷たいものだった。
この世の終わりみたいな眼をして夏樹くんを見ている。
この眼・・・・前に見たな。
隆哉さんを送り届け、自宅に帰って桔梗の花を散らしたとき、こんな眼をしていた。
「よしよし、お母さんすぐに帰って来るからな。」
オレは夏樹くんを抱きかかえると、立ち上がってあやしながら何か飲み物を探すが、
「ほっとけばいいって言ってるだろ!!」
突然ミクが大きな声で言うからビックリする。
そして直ぐに、ドンと背中に当たる感触が。
ミクが、夏樹くんを抱っこしたままのオレの背中に抱きついて来た。
「・・・・・・」
言葉が出なくて、大きな声にビックリした夏樹くんも泣き止んで、一瞬辺りは静まりかえる。
「・・・ミク。」
ようやく声を掛けるオレに
「ずるいよ、夏樹だけ・・・夏樹だけ・・・・」
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