120 / 153

第120話 冷たい眼。

 昼まで夏樹くんと遊んでいたが、眠くなったのか夏樹くんがぐずりだした。 「ぅ..うぇえ~ん......ママぁ.....」 ついに母親がいない事で不安になったのか、おもちゃを放り投げて泣き出してしまった。 「夏樹くん、ほらっ、ぞうさん。」 ぞうのぬいぐるみでおどけてみせるが、「ううぇ~ん、ううぇ~ん・・・」と泣き止まない。慌てるオレをよそに、ミクはじっと夏樹くんの泣き顔を見たまま動かず。   「ミク、なんとかしろ!なんかジュースとかさ、・・・」 「....泣かせておけばいいんだ。」 ぽつりとミクが言って、ソファにドカッと腰を降ろす。 「え?・・・おい、どうして。」 焦るオレが夏樹くんを抱っこしようとすると 「泣いても、誰も何もしてくれない事が分れば、諦めて泣き止むよ!」 そう言ったミクの表情はものすごく冷たいものだった。 この世の終わりみたいな眼をして夏樹くんを見ている。 この眼・・・・前に見たな。 隆哉さんを送り届け、自宅に帰って桔梗の花を散らしたとき、こんな眼をしていた。 「よしよし、お母さんすぐに帰って来るからな。」 オレは夏樹くんを抱きかかえると、立ち上がってあやしながら何か飲み物を探すが、 「ほっとけばいいって言ってるだろ!!」 突然ミクが大きな声で言うからビックリする。 そして直ぐに、ドンと背中に当たる感触が。 ミクが、夏樹くんを抱っこしたままのオレの背中に抱きついて来た。 「・・・・・・」 言葉が出なくて、大きな声にビックリした夏樹くんも泣き止んで、一瞬辺りは静まりかえる。 「・・・ミク。」 ようやく声を掛けるオレに 「ずるいよ、夏樹だけ・・・夏樹だけ・・・・」

ともだちにシェアしよう!