121 / 153

第121話 可愛い夏樹くん

 オレの肩に乗せたミクの手が震えて振り向きたい気持ちにかられるが、胸に抱いた夏樹くんを放っておくことも出来ず、しばらくそのまま立っていた。 「にぃに、よちよち・・・ないてゆの?」 夏樹くんがオレの肩から顔を出して、背中のミクに話しかける。 小さい手がミクの頭を撫でてくれ、オレは少しだけ微笑ましくて気持ちが和んだ。 「なっちもガマンすゆから、にぃにもガマンちて!」 そう言いながら何度も頭を撫でるから、ついにミクも顔を上げた。 「ふっ・・・分かったよ。我慢する。」 ミクの手がオレの肩から離されて、夏樹くんの頭を撫でると二人はニコリと微笑んだ。 「ゴメン、酷い事言って・・・」 「いや、・・・」 ミクは冷蔵庫から牛乳を取り出すと、哺乳瓶に入れてやり、それを夏樹くんに渡す。 もう母乳は離れているのに、こうしてぐずるときは哺乳瓶で飲み物を飲むらしい。 子供の本能なのか、一番安心できるのは母親の胸の中だと分かっているんだ。 オレの膝の上で、哺乳瓶に吸い付きながら眠ってしまった夏樹くんを抱きかかえると、居間に敷かれた座布団の上にそっと寝かせた。 それから、ソファにもたれて寝顔をみていると、ミクが隣に腰を降ろしてくる。 「いいなぁ夏樹。・・・内田さんに抱っこしてもらって。」 「え?」 「俺だって悲しい時は抱っこしてほしいよ。でも、誰もしてくれなかった。だから諦めたんだ。」 そう言うとオレの肩に頭を落とした。

ともだちにシェアしよう!