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第124話 満たしたい・・

 随分長い時間がたったような気もするが、裏庭の砂利をはじく車の音がしてオレたちは我に返った。 ガチャリ、と玄関のドアが開くと「ただいま」と言いながら明子さんが入ってくる。 「「おかえりなさい。」」 オレとミクは明子さんに言うと、互いの顔を見合った。 「なっちは寝ちゃったのねぇ。ごめんね、ぐずったでしょ?」 「少しだけ、・・・でも哺乳瓶に牛乳入れてやったらおとなしくなった。」 ミクが空の哺乳瓶を掲げて言うと、明子さんはクスツと笑った。 「これ、姑さんがいたら叱られるわね、いつまで哺乳瓶与えてんのって!・・・でもね、子供だっていつまでもこんなの吸ってないわよ。気が済んだら卒業できる。それまでは口が寂しい時は吸わせておくの。」 そう言って、空の哺乳瓶をひょいと持つと台所へと向かった。 明子さんの後ろ姿を目で追いながら、つくづく母親は強いなと思った。 というか、明子さんが強いんだな、きっと。 周りの言葉を気にするより、自分の信念を持って子供を育てている。 欲求を満たしてやることは、我儘を聞いてやる事とは違う。 心を満たしてやることで、子供は安心するんだろうな。物を与えてるだけじゃダメなんだろう・・・ そんな事を考えていたら、オレはさっきまでの自分たちの事を忘れる所だった。 慌ててミクの方を向くと、夏樹くんの横で膝を抱えて座っている。 きっと羨ましいと思っているんだろうな・・・ (お前の心は、オレが満たしてやるよ.......) ミクの横顔に心で語り掛ければ、こちらを向いたミクと目が合った。

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