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第125話 通夜に。
真新しい黒のスーツに袖を通せば、辺りの静けさも加わり緊張感も増してくる。
オレは、隆哉さんのお通夜に出席し、そこで初めて隆哉さんの家族と対面した。
小柄な可愛い感じの奥さんと、中学生くらいの女の子。
隆哉さんに似たおとなしそうな娘さんは、ひとしきりミクに何か話しかけている。
オレは、少し離れたところに居てそっと見守っていたが、辛そうなミクの顔が気になった。
「ミク、内田さんの横に座っていなさい。」
「はい・・・」
明子さんに言われてこちらに来ると、オレの隣に腰を降ろし「ふぅ~っ」とため息をつく。それからオレの方を向くと口をへの字に曲げた。
「やんなっちゃう。まるで隆哉さんが早死にしたのが俺のせいみたいに・・・」
「あの娘が?」
さっきの二人の感じに違和感を覚えたのは、ミクが一方的に何かを言われていたからか・・・・・。
「5年の間にどんどん弱っていって、結局死ぬ前に帰ってきたって!」
座りながら伸ばした足をクロスさせると、自分の胸の前で合わせた指をにぎにぎしている。
今まで親戚としての付き合いはあったんだろうか。
それとも単にお父さんを取られたような気持でいるんだろうか・・・・
「隆哉さんは5年前から自宅に帰らなかったのか?ずっとあの家で暮らしてた?」
ミクにだけ聞こえるように話しかけると、こちらに顔を向ける。
「そうだよ。・・・・俺の前からいなくならないでってお願いしたから。」
・・・・・・・・それは、・・・
ミクの気持ちは分かるけど、そんなことを言われたら帰れないじゃないか・・・。
「でもさ、奥さんは俺がいない間にあの家に来ていたんだ。匂いでわかった。」
「匂い?」
「女の人の匂いだよ。化粧品とか香水とか。決まって同じ匂いがするんだ、隆哉さんの服から・・・」
少し寂しそうに言ったが、ミクの初恋は隆哉さんで、それは叶わぬ恋となったわけで。
自分に気をひかせるために言った言葉が、隆哉さんを苦しめるなんて思いもしなかったんだろうな。それだけ子供だったわけだ・・・。
「内田さん、帰ろうか...........。」
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