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第127話 故人の魂
スーツを着替えるのも面倒で、そのまま車を走らせると昨夜来た道を戻っていくが、来るときに感じた重苦しさはなく、変な話だけど隆哉さんの魂は何処か雲の上にでも行ってしまったような気さえしていた。
よく分からないが、故人の偲び方は人それぞれでいいような気がする。
宗教的な縛りはあるんだろうが、オレは何も信仰していないから・・・
その人との関り方によっても違うだろうし、故人の魂が隣にあると感じる人は、そう思う事で自分が救われるのならそれでいい。遥か雲の上にあると思う人は、天を仰ぎみれば心が救われる。もちろん写真や墓石に語りかけたっていいんだ。
高速に差し掛かる手前で赤信号に引っかかり、隣でうとうと眠るミクの方を見た。
昨夜オレの布団に入ってきたのは、やっぱり寂しかったんだろうな。
今も、オレのスーツの裾を握り締めている。
ミクにとっての隆哉さんがどんなに大切な存在だったとしても、ミクはこうして生きている。この先も、自分の人生を生きる権利がある。だから、隆哉さんには遠く空の上から見守ってやってほしいと思った。そして、足りない心の隙間はオレが埋めてやれたらいいのにと・・・。
思ったより早い時間に帰宅出来て、居眠りしたミクはスッキリした顔で門をくぐった。
オレは、すぐにスーツを着替えようと部屋に戻って行く。
明日は仕事だし、どのみち今夜か明日の早朝には帰って来るつもりだったが、さすがに慣れない環境に身を置いたせいか疲れていた。
「ミク、オレもう寝るから、シャワーは明日の朝にする。じゃあな、おやすみ。」
そう言って冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出すと居間で座っているミクを見た。
「うん、ありがとう。疲れたよね、おやすみなさい・・・」
俯きながら言うから気になるが、オレも明日があるからそのまま部屋へと戻る。
どさっと身体を布団に沈めれば、昼間の情景が脳裏に浮かぶ。
ミクと交わした口づけの感触は、こうして目を閉じれば蘇ってくる。人差し指で自分の唇をなぞればミクの柔らかい唇が思い出されて......。でも、今はそれよりも眠気の方が勝っていた。オレは静かに横たわり眠りにつくと、真っ暗な空間に身を置いた。
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