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第131話 オヤジですか?

 しばらくすると始業時間になり、朝の打ち合わせの為オレと山岡さん、長野さんの三人は集まって資料に目を通した。 今日の依頼は、又病院からの転院。 今回は、中年の男性が奥さんの転院の為に連絡をくれた。 車で一時間半ぐらいの距離だが、奥さんの実家に近い病院らしい。 「やっぱり嫁さんが長期入院となると、実家に頼らざるを得ないのかなあ。男は仕事でなかなか病院へも顔出しできないもん。」 長野さんが、席へ戻るときオレに言った。 「うちの親父もそうでしたね、母親の入院中はあまり顔出していなかった。」 昔の事がふと蘇り、いつもは話さない両親の事を長野さんに話してしまった。 「内田くんのお父さんって、寡黙な頑固オヤジじゃない?」と聞かれ 「いえ、反対です。生真面目で周りに気を使う人でしたよ。」と答える。 「....でした、って過去形なのは、ひょっとして亡くなっている?」 さすがに長野さんは察しが良くて、オレの父親が他界していると分かったようだ。 「はい、もうずいぶん前ですけどね。」 「そうか・・・それで内田くんはしっかりしているんだね。おやじクサイなんて思ってたけど、そりゃあそうなる筈だ。」 「・・・おやじクサイ!?・・・そうですか・・・」 ちょっとへこんだ。人からそんなにおやじクサイと思われていたなんて。 「あ、言葉のあやだから。別に本当におやじみたいとか思ってないよ。しっかりしてるって言いたかったんだ。ごめんな?!」 焦る長野さんが、顔の前でブンブンと手を振りながら言う。 「いえ、大丈夫です。」 一応言っておくが、三十路手前ですでにおやじ臭がするなんてがっかりだな。 長野さんの方が気持ちも若いし、独身を楽しんでいるようで、少しだけ羨ましいと思ってしまった。

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