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第132話 病院だもの
病室に運び込んだストレッチャーに患者さんを移すが、奥さんの背中にまわした手は重みを感じなくて、子供を抱き上げているような錯覚を起こさせた。
「大丈夫ですか?痛い所は無いですか?」
山岡さんが聞いている。
「はい、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
オレたちに微笑みをくれると、奥さんはご主人の方を見た。
口元がキュッとしまって、少し緊張しているんだろうか、握りしめた手を自分の胸の上に置いた。
「それでは下に降りまーす。ゆっくり行きますから、安心してくださいね。」
声を掛け乍らエレベーター前に行くと、数人の看護士が見送りに来た。
「中島さん、向こうでもちゃんとリハビリしてね。頑張ってください。」
口々に声を掛けられて、奥さんもご主人も笑顔を向けていた。
3か月も入院生活が続いていると、看護士も情が湧くというか、やはり寂しさはあるんだろうな。笑顔も複雑ではある。
オレたちはエレベーターに乗り込むと、駐車スペースに停めた搬送用の車両まで進む。
「ご主人は奥さんの隣にどうぞ。もう一人が後ろに付きますから、気分が悪かったら言ってください。」
寝台をぐらつかない様に固定すると、上半身の角度を少し上げご主人の顔が良く見れるようにする。
全てのチェックを済ませると、オレが運転席に乗り込み後ろに長野さん、助手席には山岡さんが座った。
時間的にはそんなに長い距離ではないが、夫婦の間に流れる空気が重くて、長野さんも声を掛けずにいる。まあ、健康な人を搬送する訳じゃ無いし、通常は静かなものだったが、今日の依頼者は奥さんと離ればなれになるわけで、余計に切なさが伝わってくる。
途中、あまり信号にもかからず、予定の時間より早く着いたオレたちは、患者さんを降ろすとしばらく手続きが終わるまで待っていた。
ぐるりと見渡せば、ここは病人とその家族ばかりで、今まで何度も病院には足を運んでいるが、気持ちが暗くなるばかり・・・
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