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第142話 惹かれている?

 江口さんは入社してすぐの上司で、山岡さん同様オレの履歴を知っている人だった。 もちろん親の事も施設の事も、奨学金を返さなければいけない事も知っている。 知ってはいてもそれを話題にしてくることはなく、安心していられる上司たちだ。 「何か食べたいものあるか?酒はダメだけどな。」 そう言うと、前にも来たことのある割烹料理屋の座敷に腰を降ろしお品書きを差し出した。 「え・・・と、じゃあ鍋で。寄せ鍋でいいですか?」 オレが聞くと、おしぼりで顔を拭きながら「いいよ。」と答える江口さん。 注文を済ませ、待っている間にじっとオレの顔を見るから照れてしまうが、俯くとすぐに「ひょっとして、あの子の事で何か悩んでいるのか?」と聞かれる。 ”あの子”というのは、ミクの事だとすぐに分かった。 オレがあそこに間借りする事を伝えたとき、色々驚く事があるかもしれないが、隆哉さんも喜ぶだろうよ、と言ってくれたから。 もしかして、5年前の時に何か言われていたんだろうか・・・・ 決してオレたちには話さない事があるんじゃないのか。 そんな事を勘ぐってしまう。 「ヨシヒサくんは・・・基本いい子ですよ。まあ、少しだけ危なっかしい所もありますけどね。」そう言ってお茶を口に含んだ。 「あの子に惹かれているのか?」 「・・・・え?!」 咄嗟に聞き返すが、今確かに江口さんは「惹かれている」と言った。 それはどういう意味だろう。興味の範囲なのか恋愛の対象として言っているのか・・・。 オレの頭の中で、言葉選びが始まった。

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