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第3話

「学生の気分は味わえるかなって」 「今着るってこと?」 「うん、俺あっちで着てくるね」  掲げた制服を前に首を傾げる俺をよそに、白はいそいそと自分用の衣装を持って風呂場へ消えていった。  どうやら俺の言葉でこの衣装のことを思い出し、思い出したら思い出したで試したくなったようだ。素晴らしい行動力。もちろんこのタイミングでの行動は、俺の行為をやんわりと避けるためじゃないかと思わなくもないけれど、もう童貞じゃない俺には多少の余裕がある。そういう時は白の楽しみを優先すべし、だ。  正直自分で着るのはどうかと思ったけれど、どうやら白の制服姿が見られるらしいということはわかったから、出迎えのための正装として着替えることにする。  とはいえ着替えること自体は簡単だ。コンサートの衣装なんかと違い、袖を通せばそれで終わりだ。特に手間取ることもない。  ……ただ、撮影現場となるとあまり気にしないけれど、プライベートで着るとなるとやっぱり違和感がすごい。なぜだろうか。この年齢で制服らしきものを着ると、ものすごくやましいというかいやらしい感じがするのは。変なコスチュームは慣れているはずなのに、やっぱり周りが日常の風景だからだろうか。 「わあ、紅くんかっこいいね!」  思わず姿見の前で苦笑いしていた俺は、我に返って視線を跳ねた声に向ける。 「相変わらずそういうの似合うなお前」  俺同様さくっと着替えた白は、しっかりネクタイを締め、ブレザーを羽織ってきた。風呂場に行ったついでにコンタクトを外してきたらしく、かけられたメガネがいい感じに効いている。元から顔つきが幼いからか、高3くらいでも行けそうな出で立ちだ。いや、高校生にしてはちょっとオーラがありすぎるか。 「紅くんは、学生さんにしてはちょっとセクシーすぎるかな」  どうしたものかと引っかけただけで結んでいないネクタイと、上まで閉めていないボタン。軽く羽織っただけのブレザーも相まって、確実に生徒指導室行きの格好をしている俺。それを見て肩をすくめた白は、けれど「でも不良っぽくてかっこいい」と照れたようにはにかんだ。 「せっかくだからコスチュームプレイしよう」 「え!?」  そんな白が口にしたセリフが直球すぎて思わず動揺したのも束の間。 「紅くんが、俺の家にテスト勉強しにきたって設定ね。高校生役まだいける!」 「あ、そういう……」  コスチュームプレイとかいうからエロい想像をしてしまったけれど、どうやらロールプレイの意味だったらしい。  なんという童貞的誤解だ。恥ずかしすぎる。  せっかく制服を着たんだから、高校生になりきろうという可愛らしい提案だ。気を付けろ。  隠れて深呼吸をして心を落ち着ける俺に気づかず、小道具として使った教科書までもらってきていたらしいそれをテーブルに並べる白。普通に勉強会の用意みたいだ。昔、本当に高校生だった頃の楽屋でこんな風景を見た気がする。 「俺が不良なら白は委員長かな」 「ふふふ、メガネだしね」  メガネの弦に手をやって賢そうに笑う白がバカっぽくて可愛い。いや、そもそもいい年してこんな格好してるのがすでにバカっぽいんだけど、第三者がいなきゃ指摘する奴はいない。 「しかし、不良ってテスト勉強すんのか?」 「んー、付き合ってる俺と一緒の大学に行きたいから、って感じで」 「あ、付き合ってる設定でいいんだ」  どうやらその辺はアバウトらしい。まあ、そうでもしないと家の中で不良と委員長が仲良くお勉強なんてシチュエーションはないか。  なんにせよ、勉強が好きじゃない悪い子ちゃんは得意分野だ。  付き合っている委員長くんと二人きりでお勉強。そんなのちょっかい出さなきゃ嘘だろう。

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