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第3話

◆墜落者 黄昏時――セルテスはいつものように庭園にいた。足首の鎖が目一杯伸びきるところまで庭の端に近付くと、石積みの壁に四角く穿たれた穴に手が届く――小さかったヨアンが必死によじ登ってきた穴だ――セルテスはそこから、わずかに見える地上を見下ろすのが好きだった。 するとその時、背後で大きな物音がした。驚いて振り返ったセルテスは、そこに在るものを見てさらに驚いた。それは背に翼を生やした若者だったのだ。有翼種の事は本で読んで知っている。だがセルテスが実物に会うのは――初めてだった。 若者の肌は日に焼けて輝き、長く逞しい手脚の先にある指は、人のものとは数も形も違っていて、鋭く頑丈そうな鉤爪を備えていた。頭髪は濃く深い茶色で、同じ色の両の翼は厚みがあって重々しく、考えていたよりもっとずっと大きい――セルテスは彼の持つ野性味に心を打たれ、暫し動けなかった。 若者は目を押さえて微かに呻き、起き上がろうともがいている。どこか痛めたのだ――セルテスは気付くと鎖を鳴らして彼に駆け寄り、うろたえながら身を屈めた。 「大丈夫ですか!?ええと……言葉は――わかるのかな」 「わかるよ!馬鹿にすんな――ちょっと――ヘマして毒虫の群れにつっこんじまって――イタタ、目が開かないんだ――」 「毒虫の?そのままにして、ちょっと待って――」 その時、水を汲みに塔の下まで降りていたヨアンが戻って来たのだが――庭園に羽根付きの若い男が転がっているのを見ると悲鳴を上げた。 「うわあっ!なっ、何ですかそれ!?」 「有翼種の方ですよ」 セルテスが答えた。 「有翼……い、一体――どこから――!?」 「空からです。毒虫に目をやられたんだそうです――解毒剤を取ってくるから、ヨアン、ちょっと看ててあげて」 「有翼種なんて――ここらじゃついぞ見かけないのに。なんでまたこんなとこに落ちてるんだよ――」 ヨアンはぶつぶつ言いながら、若者に手を貸して助け起こした。見たところ――目以外特に問題は無いようだ。 そこへ、薬瓶と治療用の布とを携えたセルテスが戻って来た。彼は中の液体を布に沁み込ませると、座り込んで目を覆っている若者の腕にそっと触れながら尋ねた。 「手を――外せますか?これは大概の毒に効くから――」 顔から手を離した若者の、痛々しく赤く腫れた目の周囲を、薬液で丁寧に拭う。 「暫くこの布をあてておいて下さい。痛みがひいたら目を開けられるようになると思いますから」 「うん、有難う――」 若者は言われるまま、顔にあてがわれた布を押さえた。 「おい!」 ヨアンが苛立って言った。 「お前――どこから来たんだか知らないけど、ここは王宮の所有地だぞ!?その方が王族だってわかってるのか!?」

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