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第12話

◆決意 「スクアード……お前もいいかげん、相手を決めろよ」 ある日、荷物をまとめながら兄が言った。彼は友人の酒宴で知り合ったニコラという娘と気が合い、所帯を持つことにしている。相手を定めた有翼種は、繁殖の時期が来ると営巣地に移る。生まれてくる子供には翼や鉤爪の使い方を教えなければならない。それは人の町のように建て込んだ場所では無理なので、子育ての間はそれらに適した営巣地に滞在するのだった。 ジェセはスクアードと同じ時期に子供を持ちたかったのだが、スクアードは一度も同族の娘に気を引かれる様子が無いまま――トプフに移って最初の繁殖期がきてしまった。 「色んな娘がお前を気に入ったって言ってるのに……どうしちゃったんだよ」 年頃の有翼種の娘たちは皆、スクアードの頑健な身体に興味を持った。厳しいベセルキアの環境で生き延びてきたスクアードには、トプフ生まれの男たちには無い逞しさがあるのだと若い娘たちは言う。スクアードのやや朴訥な喋り方や西方の国訛りも、彼女らには可愛らしく響くようだった。 「みんなお前が誰を選ぶか気がきじゃないんだぞ……ほっといたらきっと取り合ってケンカになるぞ」 兄がからかった。 「だって、誰も好きになれな……いや……みんな同じ位で、比べられないんだ」 「だから言ったろう。良い子を産んでくれそうな娘を、選べばいいんだって。腰の辺りがしっかりしてる子にしたらいいんじゃないか?ほら、宿のかみさんみたく」 「あの女将さん?良い人だけど、こないだ麺のし棒振り回して旦那のこと追いかけてたぜ……兄さんは、ニコラが良い子を産みそうだから選んだの?」 「えっ!?」 いきなり訊かれ、ジェセは言葉に詰まった。 「いや……俺は……ええと……」 「わかってるよ」 スクアードは微笑んで言った。 「兄さんは、ニコラに子供を産ませるために一緒になるわけじゃない――彼女が誰より兄さんを理解してくれるから、連れ添うんだろ?俺も――そういう相手を見つけたいんだよ」 暫く後――ジェセとニコラのもとに、元気な男の子が産まれた。知らせを聞いたスクアードは祝いの品を持って、営巣地の兄を訊ねた。 小さく温かな赤ん坊を抱き、愛らしいその顔を見つめながら、スクアードは言った。 「兄さん、俺、ベセルキアに戻るよ」 「えっ!?」 ジェセが叫ぶ。 「なんだって――!?何馬鹿なこと言ってるんだ!?」 「ここへ来てすぐ――決めてたんだ。兄さんが無事に家族を持つのを見届けたら、俺はベセルキアに戻ろうって」 「だって!そんなことしたら――」 「うん、きっと――もうトプフへは戻ってこられない――」 「スクアード!お前、あそこの暮らしがどんなにひどかったか――身に沁みてわかってるだろ!?」 「うん、わかってる」 スクアードは眠ってしまった赤ん坊をニコラにそっと返した。 「でも俺は、あそこに……大切な人を置いてきてしまった。トプフでの暮らしは素晴らしい。だけど、自分だけがここで幸せになる事は――俺にはどうしてもできないってわかったんだ。そんなの――俺自身が許せない」 「スクア――」 言いかけたジェセを、ニコラが止めた。 「ジェセ。行かせてあげて。スクアードはもう決心してしまってる。例えあなたがどんなに反対しても、彼は行くわ。だから――彼が苦しまないよう、笑って送り出してあげましょう」 ニコラはスクアードを見た。 「私達はここで幸せに暮らすわ。だからスクアード、あなたもベセルキアで幸せにならなければいけない。約束してね」 「うん、ニコラ――約束する。ありがとう」 ニコラは腕の中のわが子を愛しげに見て言った。 「この子にあなたの名前をつけるわ。スクアード二世。強く誇り高い叔父と――同じ名前を」

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