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第16話
◆彫り師 2
ロークはそれから、度々セルテスの肌の状態を確認しに来た。何日かすると、動くたびに悩まされた皮膚を焼く痛みが感じられなくなった。それまでロークに触れられただけで浮かび上がっていた紋様も現れなくなっている。
そうなった時、ロークはまた嬲り役の男たちを連れて現れた。セルテスは今日は寝台ではなく――居室の石組の床に敷いた緋色の敷き布の上に、素裸になって横たわるよう言われた。
「そこの方が花が映えると思ってな。寝室は暗すぎる」
ロークは言った。好きなだけ見物すればいい――セルテスは初めて、投げやりにそう考えた。肌にこのようなものまで彫り込まれて――自分が男達の慰みに使われるだけの道具にされたようだ――もう――何をされても一緒な気がする。どんな辱めを受けても、何も感じないだろう。
床の上のセルテスの肌を、男達の指が容赦なく這う。セルテスは白い裸体を捩り、腰を突き上げて身悶えた。
「あ――あっ!ん……あ、あ……!」
「いつもより声を上げだすのが早いんじゃないか?」
ロークは愉快そうに言った。実際そうだった――あの術を施されてから、肌がひどく敏感になった――これまで痛いだけだった男達の硬い指が与える刺激が――今日はなぜだか甘く感じる。
ふいにセルテスの肌を吸っていた男が声を上げた。
「おお?こりゃあ――?」
そこに美しい花が開いている。花はそのうち、白い肌に溶けるようにゆっくりと薄れ、かき消えた。ロークが満足げに頷いた。
「思ったよりずっと見事なものだな。もっと咲かせてやれ――」
男たちはどよめき、美しい花見たさにセルテスの肌をますます愛撫した。
床の上で何本もの手に肌を弄られ――セルテスは淫らに身体を波打たせた。喘ぎが抑えられない。その度にあらたな花が白い肌の上に咲いては消えていった。自分の身体が自分の物ではなくなったようだ――きっとそうなのだろう。ロークが――セルテスを得体の知れない、何か別の生物に変えてしまった――その甘美な感覚は同時にセルテスの心を苛んだ。だが悦びに喘ぐ声を――止めることができない。花を咲かせる事も――やめられない。
「凄い悦び様だな――」
ロークが感嘆したように言った。
「今日はもう一つ余興を用意したのだが、こんなに楽しめるなら次に取っておくべきだった――まあいい。おい貴様ら、少し弟を休ませろ」
男達が名残惜しそうにセルテスの上から身を引いた。ロークが居室の外に向かって声を掛ける。
「来たか。遅かったな。入れ」
セルテスは床に横たわったまま乱れる息を整え、入ってきた人物に目をやった。その瞬間――衝撃に襲われて跳ね起きた。居室の入り口に立っていた男。それは――
「ヨ――ヨア……」
懐かしいヨアン。セルテスの、血を分けた弟のように大切な存在――彼は最後に別れたときより――背が伸びて逞しくなり、顔つきが随分と精悍な様子になっている――そして――
そんな。ヨアン――どうして?セルテスは息ができなくなった。小刻みに胸を上下させて空気を得、なんとか倒れないよう努めたが、手足の先が冷え目の前が暗くなってくる――
ヨアンは――ロークと同じ、黒地に白い髑髏を染め抜いた長い外套を備えた甲冑を身に付けていた――そしてそれだけでなく、その両手の甲の肌には――不気味な髑髏模様の入れ墨が、黒々と彫り付けられている――
「俺の若き近衛師団長を紹介しよう」
ロークがヨアンに歩み寄り、彼の肩に親しげに手をかけた。
「こいつが命を取りとめてからこっち、一度も会わせていなかったな。悪かった」
ロークが言う。
「聞けばこの若者はもともと盗賊の出だそうじゃないか。療養の間に、俺がベセルキアを征したいきさつを聞かせたら大いに同情してくれてな――俺のために働くと誓い、両手にその証となる冥府の紋章を象った墨も入れた。先日は国で催した闘技大会で優勝したが、対戦相手を、3人ばかり兵としては使い物にならなくしたほどの容赦の無さだ――瞬く間に出世して、今では近衛兵の統率を任せている」
闘技大会?セルテスは愕然とした。あの優しいヨアンが――剣を用いた戦いで勝ち抜いたというのだろうか?その上――兵士を嫌っていた彼が、師団長だなんて――
「おい貴様ら。再開していいぞ。セルテスを啼かせてやれ」
みじめに床に押し倒され、セルテスは再び激しく喘がされ出した。いやだ。こんな――ヨアンがいるのに。
ロークがヨアンに囁くのが聞こえた。
「師団長。参加したければしていいんだぞ。お前はこいつの慰み物にされていたのではなかったのか?恨みもあるだろう」
「いえ。私は――見られていると駄目なもので」
「そうか」
ロークは笑った。
「お前は度々王宮を抜け出しているそうだが――町に良い相手でもいるのか?」
「ええまあ。店の女です」
「娼婦か。入れあげるのは程々にしろよ。腑抜けにされるぞ」
「気をつけます」
男たちが嬉々として言う。
「見てみろ――こんな所にまで花が咲くぞ」
抵抗して暴れるセルテスを男たちは押さえつけ、ヨアンの目の前で無理矢理脚を開かせた――さらにセルテスの中心を乱暴に扱き抜く。硬く張り詰めだしたそこに、淫らな植物の蔓が――蛇が這い登るように絡みついて花をつけた。ヨアンの冷たい視線が――その部分に注がれている。
「う……あ、あう!嫌です、止め――止めさせてください!――ローク王――兄上!」
セルテスは泣き叫んだ。
「兄上――どうか、どうかお慈悲を!殺してください!この者たちに今すぐ私を――殺せとお命じください――!」
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