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第19話

◆洞窟 1 「こんな……一体どうやって?」 スクアードは感嘆してヨアンに訊いた。飛行装置を見上げながらヨアンが呟く。 「王宮の書庫に、古の民が記した呪術書があるとセルテス様から昔聞いた。あの方は、自分がどうして他の人達と違うのか――それがなぜ、古の民の呪いと言われるのか――知りたがっていたんだ」 「セルテスが――そうか……」 「でもその文献は、封印されていて誰も見る事が出来なかった。俺は何回か書庫へ忍び込もうとしたが、呪術書に触れれば災いが降りかかるという言い伝えを信じていた王族達が、見張りを厳しくしていたから無理だった。ロークに囚われてから――」 ヨアンはそこでふと、苦しそうな表情になった。 「俺は……ロークに取り入るために何でもやった。そうやって……気に入られ、信頼されれば――王宮の中で自由に動けるようになる。そうすれば、書庫へ入る事も可能だ。そう思って……」 灯りを支えるヨアンの左腕が、小刻みに震え出した。スクアードは、ヨアンのその掌に、血の滲んだ布が雑に巻かれているのに気がついた。 「ヨアン、これは?――怪我をしたのか?」 「え?ああ……」 ヨアンが掌を見やる。 「……これは……自分でやった……大したことない」 「自分で……?見せてみろ。いつやったんだ?まだ血が完全に止まってないみたいじゃないか……ちゃんと手当てしたのか?」 スクアードはランプを取りあげて下に置くと、強引にヨアンの手を取り、注意深く鉤爪で布を引っ掛けて解いた。と――その下からあらわれた彼の手を見て、スクアードは息を飲んだ。小指が付け根から失われている。傷口の状態から見て、鋭い刃物で切り落としたのに違いなかった。 「ヨアン……いったい……?」 ヨアンはぼんやりと答えた。 「お前が行った後……冥府の国から……ロークがベセルキアに侵攻してきた。ロークは王と后を殺し、王宮をのっとった……奴はセルテス様の異母兄で、あの方を深く恨み、いまだに北の塔に閉じ込めている――」 スクアードは口と鉤爪を使い、きちんと止血できるよう布を巻きなおした。ヨアンが顔を顰める。 「痛かったか?すまん」 「セルテス様が――」 「セルテスが?」 「――セルテス様が――俺が命に代えても護りたいあの方が――目前でむごい扱いを受ける様を――見物させられた。ロークが俺の忠誠心を疑っていたのがわかっていたから、俺はセルテス様が獣に貪られるのを――平気な顔で眺めていなければならなかった。あの方は――凌辱者どもに、殺してくれと懇願して――あんな――酷い――セルテス様――」 「ヨアン――」 たまらなくなってスクアードは、傷ついた掌で顔を覆うヨアンの肩を抱いた。 「本当は、あの場で暴れ出したかった。だがロークは凄まじく強い。彼の兵達もだ。俺が一人で抗った所でどうにもならない。でも――残酷な目に遭わされているセルテス様を目の前にして――怒りで気が狂いそうになった。ロークの前ではなんとか耐えたが、自室に戻ってから――冥府の紋章が刻まれたこんな手――切り落としてしまおうと思って――」 ヨアンの両の手の甲に彫り付けられた髑髏の柄。これも……彼はロークの信頼を得るためにやったのだ……スクアードはヨアンが痛ましかった。 「でも――思い留まった。そんなことしたら――セルテス様を助けられなくなってしまう――」 「うん、その通りだ――辛かったな」 「俺は――セルテス様を呪術で助けられればと思って――書庫へ入って片端から文献を漁った。それでわかったんだが、古の民が使っていたのは、俺が期待してたような呪いのための秘術なんかじゃなく……ありとあらゆるものを作り出す技だったんだ……。俺達が鉄を鍛えて剣を作ったり、葡萄を採って酒を仕込んだりするのとそう変わらない。がっかりしたけど、調べるうち、古の民は、翼を持たなくとも自在に空を飛んでいたという事を知った。これが――そのための機械。飛行装置だ」 スクアードはあらためて飛行装置を見た。これが――本当に飛ぶのだろうか? 「本当でも嘘でも、賭けるしかない」 その思いを見抜いたように、ヨアンが言う。 「俺は王宮から文献や材料を少しずつ盗み出して、とにかく、できる限りその記述に近い物を作っている。もう少しで完成するんだ。スクアード」 いきなり名を呼ばれて、スクアードはヨアンの顔を見た。 「頼む、手伝ってくれ。もう一刻も猶予ならない。早くセルテス様を助け出したいんだ」 スクアードはもちろん、一も二も無く承知した。思いはヨアンと同じだ。セルテスを助け出したい。あの――自分たちの大切な人を。

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