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第20話

◆洞窟 2 「あの装置は、一から全て俺が作ったというわけじゃないんだ」 暗い森の中を、荷物を抱え、スクアードと共に歩きながらヨアンが説明した――彼は王宮の地下から、飛行装置の材料に使えそうな物をこっそりと外へ運び出してくる。スクアードは森に隠れてそれを待ちうけ、一緒に材料を洞窟へ運ぶ手助けをした。 洞窟へ着くとすぐ、ヨアンは組立作業の続きに取り掛かる。 「以前は王宮にそうそう潜り込めなかったから知らなかったが、あそこの地下には古の民が使ってたらしい道具がかなり眠ってるんだ。ベセルキアの前の王族連中は、何でもかんでも怖がって封印しちまって、それが何か確かめる事もしてなかった。ロークは興味を持って無いから書庫や地下室には出入しないし監視も甘い。おかげで俺達がこうして利用させてもらえる――それ取ってくれ」 スクアードは、言われた道具を箱から摘み、飛行装置の上に跨っているヨアンに投げ渡した。組立のような細かい仕事は、鉤爪が邪魔になって自分には無理だ。 スクアードが来たことでセルテスを助け出せる日がぐっと近付いた、とヨアンは言うが、スクアードはもどかしかった。自分にもできる力仕事が――もっとあればいいのに、と思う。 「飛行装置の心臓にあたる部分だけど……これなんかほぼ丸ごと地下室にあったんだ。こいつが動いて――ここを回転させる」 ヨアンが装置の突端にある、奇妙な形状の羽根を指差した。 「そういう仕組みなのか――しかしそんな古いので――ちゃんと働くのか?」 スクアードは訊ねた。 「とりあえずはな。一度試しに動かしたけど、結構凄い音がするんで驚いた。万が一見つかるとまずいからそれ以来やれてないのが不安なんだが。それと、もう一つ問題があって……文献によると、こいつは飛び立つとき少し距離を必要とするらしいんだ。ここから外へ向けて走らせるとして……木に引っかからない高さまで上がるのに、この洞窟の前の広さだけでは足りないかもしれない……せめてあともう少し……」 聞いていたスクアードがふいに言った。 「掘り広げようか?」 「堀り広げる?何を?」 「この洞窟を、奥の方へ。それと……そこの出口の前に生えてる藪を切り払ったらどうだろう。そうしたら大分広くなると思うが」 「そんなことできるのか?」 ヨアンが驚いたように訊ねた。 「できるよ。俺達以前岩山に住んでたんだけど、そうそう都合のいい大きさの棲み処なんて見つからないからさ……自分らで作ってたんだ」 「すげえな……それは思いつかなかった」 ヨアンが感心したように呟く。 「ぜひ頼む。そしたら結構な距離が確保できる」 「うん、まかせとけ」 スクアードは嬉しくなった。これで自分も少しは役に立てる―― ――その晩も、スクアードとヨアンは、互いの作業を進めながら洞窟内で相談していた。 飛行装置の完成は間近だ。飛び立つときの助走距離も足りそうだ。あとはどうやってロークの追っ手を振り切ってセルテスをここまで連れてくるか――繋いでいる鎖は頑丈な手斧が調達できれば叩き切れるだろう。そうしたらスクアードが抱えてここまで飛んでくればいい。だが、塔の警備は厳しい。それをどうやって突破したものか―― 追っ手が来る前に飛びたてるようヨアンは飛行装置の所にいなければならない。しかしスクアード一人で塔を襲撃し、セルテスを連れ出すのはかなり難しそうに思われた。 「塔の警備は何人だ?」 「周囲に四人、塔の入り口に二人、部屋の入り口に二人……あと周辺を巡回してるのが何人かいる。こいつらも面倒だ……回ってきて見張りがいなくなってたら、異常に気付いてすぐ応援を呼ばれる」 「そうか……じゃあ巡回と巡回の合間が狙い目という事か……いつ来るか把握しておかなければ」 スクアードは岩を削る手を暫し止め、腕を組んで考えこんだ。 「前に空から近付こうとしたら鉄の矢を放たれた。あれで狙われるとかなり厄介だから、弓を持ってる奴を先に倒しておく必要もある……」 「以前の間抜けな兵と違って訓練が行き届いてる奴らだ……誰かがやられたらすぐ気付くかもしれない――見つかれば数人一度に相手する羽目になる。やはりスクアードだけでは無理だ。俺も行くよ」 「しかしそれだと――お前が飛行装置まで辿りつくのが間に合わないだろう」 「馬はどうかな?一緒に塔を襲ってお前がセルテス様を連れ出したら、俺はすぐ馬に乗って追うというのは」 「馬は全部王宮で管理されてるんだろ?ばれずにどうやって調達する?それに道も無い森の中を走り抜けるのは、山猪ならともかく馬じゃ難しいと思う。やっぱり俺が二人抱えて飛ぶしかないんじゃないか?」 「しかし二人も抱えたら高く上がれないし速度も出せないだろう?追いつかれて飛行装置の場所がばれたら飛びたてなくなる」 「そうか――くそ、難しいな――でも絶対に成功させないと」 ため息をついたスクアードに向かい、ヨアンがふいにシッと言って手をかざした――洞窟の外の闇の中に――何かの気配がする。 只の獣ならばいいが、もしもそうでないのなら――ヨアンは装置から下り、置いていた剣に手をかけた。スクアードも鉤爪の岩土を払い落として身構えている。 と、洞窟の灯りが届かない暗い部分に、何かがごとりと音を立てて置かれた。同時に小さく衣擦れのような音もしたが――すぐに静かになった。 二人が洞窟の入り口から出て外を見たとき――そこには何もいなかった。 「なんだった?山鳥かな。何かが空を切って――飛んでいくような気配がしたんだが」 スクアードが、真っ黒な木々の影の合間に見える暗い空を見上げて言った。 「空を?そうだったか?でも山鳥は夜は飛ばないだろう――ん?」 ヨアンの視線の先に、灰色の布袋が置かれていた。近付いて持ち上げると、ひどく重い。中を覗くと、見たことのない形状の物体が何個か入っている。 「なんだろう?鉄製だな。何かの道具のようだけど」 二人は不思議に思って顔を見合わせた。

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