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第21話

◆塔1 計画を――もう間もなく実行できるだろうと思われたある日、兵士の宿舎にいたヨアンは、突然ロークに呼び出された。言われた通りに身支度して出向くと、他にも何人か呼び出された者たちが集まっている。どうやらロークの信頼厚い者ばかりのようだ。何事だろう――? 「揃ったな」 やって来たロークが皆の顔を見ながら言う。 「これから北の塔に行く――供をしろ」 馬上の王に続いて塔へ向かって歩き出す。見ると、鼻曲りまでもが居た。ヨアンは彼に声を掛けた。 「――じいさん、あんたも行くのか?」 「王にぜひ立ち会って欲しいと頼まれてな――やれやれ、あの塔は階段が多くて……年寄りには厄介だというに」 立ち会う?一体何に。ヨアンはなんとなく嫌な心持がした。 馬に乗ったロークが、脇を歩いているヨアンに声を掛けた。 「――ヨアン。最近のセルテスの様子を話してあったか?」 「いえ」 努めて抑揚のない声で答える――感情を見せてはならない。 「そうか――彫り師の術を施して暫くしてから、目に見えて食欲が落ちてな。鼻曲りの見立てでは、臓腑の働きが日々弱ってきているそうで――あの術を身体に保持し続けるのは、他種族にとっては負担が大きすぎるということらしい」 ヨアンは、前を向いたまま黙って歩き続けた。 「体力も減って殆ど一日中寝床の中でうつらうつらしているくせに、どういう訳か庭いじりだけは忘れない。しかし先日は、その最中に意識を失ったらしく庭園で倒れていた。世話係が気付くのが遅れていれば、日に炙られてそのまま死んでいただろう。仕方が無いので居室内にも見張りを置いた」 居室内にも見張りが――襲撃がさらに難しくなった……ヨアンは唇を引き結んだ。 「そんな有様だというのに、男に抱かせると髪を振り乱し体中に花を咲かせて凄まじい悦び方をする――その美しさと浅ましさには寒気を覚えるほどだ。もはやあれは、人とは呼べんかもしれん――」 塔に着き、居室へと上がる。セルテスは寝台に横たわり、眠っていた。兵達が入って行っても目を覚まさない。その姿を見て、ヨアンは愕然とした。 前回ここで見たときに比べ一段と痩せ――肌の色は白を通り越して青白く、血が通っていないように見える。あれで息をしているのか?まるで作り物のようだ。こんなにも――衰弱してしまっていたとは。痛ましさで胸が抉られる。 だが――そんな悲惨な状態でいるセルテスの足首に繋いだ鎖を、ロークは容赦なく引いて目を開けさせた。その青い瞳――美しさは変わらないが、そこには意志が見えず、何も映していないかのようだった。 「――起きろ。床に跪け」 セルテスは両腕で身体を支えるようにして起き上がると寝台から下り、ふらつきながらロークの前に進み出た。虚ろな表情のまま、石の床に折れるように両膝をつく。 「セルテス。お前は、俺の期待に良く応えた。死に逃げず耐え抜けと言った俺の言葉に忠実に従った……俺は満足だ」 ロークはセルテスを見下ろしながら続ける。 「以前――慈悲をと願い出たな。聞き入れてやろう」 ヨアンはぎくりとした。まさか―― 「我が弟――これより、お前の処刑を執り行う」

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