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第22話

◆塔2 ロークの言葉に、セルテスはなんの反応も見せない。一方、ヨアンは血の気が引き青褪めた――背を冷たい汗が伝う。なぜこれを――予測しなかったのだろう。ロークはセルテス様を恨むあまり、殺すことはしないといつも言っていたから――それを信じ込んでいたのだが、甘かった。 しかし、今ここでむざむざ処刑を実行させるわけには行かない。一か八か――ヨアンは前に進み出た。 「ローク王。お願いがあります」 ロークがこちらを見る。 「最後にもう一度だけ――その方の花が見たい。叶えられますか」 ロークは一瞬意外そうに目を見開いたが、すぐ笑い出した。 「呆れた奴だな。この場でそんな事を言い出すとは。さすがは師団長、いい度胸だ」 皆の顔を見ながら訊ねる。 「他に同じ事を願う奴はあるか?見納めだぞ」 頼む。誰も名乗り出ないでくれ――ヨアンは目を閉じた。 「……いないようだな」 ほっとする。だが、あと一つ―― 「王、それで――」 「わかっている。見物されるのは苦手だと言うのだろう、聞いてやろうではないか――暫く時間をやるから二人きりで存分に楽しめ」 他の者は隣の部屋へと出て行った――それを見届けたヨアンが一歩セルテスに近付くと、彼はよろよろと立ち上がって衣の袷に手をかけ、哀れにも――脱ぎ落とそうとした。ヨアンは泣き出したくなりながらその手を握って押し止めた。正面から顔を覗きこんだが、セルテスの視線は虚ろだった。 「セルテス様。私です。ヨアンです」 必死に囁く。 「ヨアン……」 セルテスは鸚鵡返しに呟いた。わかっていないようだ。 「はい。あなたを助け出しに参りました。こんなに――遅くなってしまって、こんなに長い間――辛い目に遭わせてしまって――本当に――本当に申し訳ありません」 握られているセルテスの手の上に、ヨアンの涙が滴り落ちた。セルテスがそれに気付く。わずかだが、セルテスの目に光が戻った。 「ヨアン――?」 「はい」 「ヨアン――私の?――あのヨアン?」 「はい!そうです!セルテス様!」 わかってくれた。ヨアンはセルテスを掻き抱いた。だがすぐ身体を離し、セルテスを繋ぐ鎖に目を落とした。以前の物よりかなり太い。これを切るために用意した道具はまだ洞穴の中だ――ヨアンは唇を噛んだ。長剣で叩き切れるか?難しいかもしれない。だが一撃で切れずに手間取れば、音に気付いた隣の部屋の連中が入ってくるだろう―― ふとヨアンは、セルテスの痩せ細った足首に嵌められている鉄の輪が、前の物と同じなのに気が付いた。そこにとめられている錠前も――同じままだ。 しめた、これなら。希望が見えてきた。 「セルテス様、従者である私が――こんな大それた事を言うのをお許しください」 ヨアンはセルテスの前に控え、跪いた。 「今よりあなたをここから連れ出すため働きます。だが成功するかどうか――ですから――」 ヨアンは息を吸って一気に言った。 「セルテス様。あなたをお慕い申し上げております――心から。どうかあなたのためにこの命、捧げさせてください!」 セルテスが目を見開く。 「ヨアン……」 ヨアンは跪いたまま、セルテスの足首に手を添え、腰から引き抜いた長剣の柄でひと息に鍵を叩き壊した。力任せに鉄輪を押し広げて外し、セルテスを脇に(いだ)くと、剣を構えて寝室の出口へと向かった。

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