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第5話

「あ、あと、それから蓮、ちゃんと薬飲んでる?」 「一応は」 「薬飲むときもなんか食べてからじゃなきゃ効かないんだからね。分かった?」  大人びた端整な顔をにらむようにして言ってやると、蓮が小さく声を漏らして笑う。 「なんだよ?」 「いや、綾人が俺だけのナースになったみたいで、うれしいなって思ってさ」 「なっ……な、な……」  蓮の言葉に過剰に反応して、顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。  だめだ。こんな冗談を本気にしてたら、蓮に俺の気持ち、ばれてしまう。  そんなことにでもなったら、幼馴染で、ずっと育んできた友情さえもなくしてしまう。 「ば、ばかなこと言ってないで、さっさと食べて薬飲みなよっ」 「まだ熱いから食べれないよ」 「あ、そうか。蓮って猫舌だっけ」  それは、蓮の家族以外は俺しか知らないこと。  でも、蓮に彼女ができたら、それは俺だけが知ることじゃなくなってしまうけど。 「……綾人」  なんだか少し落ち込んでしまった俺の名前を蓮が呼ぶ。 「なに?」 「ミスN高の候補におまえを投票したのは本当に俺じゃないから」  高熱があり、具合が悪いときに、どうしてそんなことを言い出すのだろう? 「そんなこと、今は」  どうでもいいだろ、という言葉は蓮によって遮られる。 「おまえが選ばれる可能性がある、そんなものに俺がおまえを出したいわけない」 「……蓮?」 「おまえのナース姿、他の誰にも見せたくなんかないのに」 「…………え?」 「好きなんだ、綾人。俺はおまえが」 「……れ……ん……?」 「幼馴染や友達としてなんか見れない」   蓮の手がおもむろに伸びて来て、俺の頬に触れた。  いつもはひんやりとしている蓮の手は、今は熱の所為か、すごく熱い。 「ずっと好きだった。綾人」  突然のことに動けない俺に、蓮の綺麗な顔が近づいて来る。  唇同士が触れ合うという寸前で蓮のそれは離れて行く。 「おまえに風邪、うつしちゃったら大変だから……」  そして蓮は座っているソファから身を乗り出して、俺を抱きしめ、熱い吐息と再び囁いた。 「おまえを他の誰にも見せたくない」  ずっと好きだった人に告られたというのに、それがあまりにも思いがけず、突然だったせいで、俺は自分もそうだと、ずっと蓮が好きだったと伝えることができずに、ぼんやり夢心地で彼の家をあとにした。

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