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第8話
「何する……って、綾人?」
気づけば情けないことに涙が零れていた。
「……っう……」
泣きたくなんかないのに、涙は枯れることを知らぬように次から次へと溢れ、頬を濡らしていく。
「綾人……」
蓮が切れ長の目を見開いて、俺の方を茫然と見ている。
これ以上惨めなのはごめんだった。
「……俺、帰る」
手の甲で涙を拭いながら、座っていたソファから立ち上がると、蓮の手がそれを引き留めるように伸びて来る。
「離せよっ……」
涙声で訴えても、蓮はつかんだ手首を離してくれない。
「綾人……、もしかして、おまえも……」
蓮が小さな声で呟いたかと思うと、いきなり強く抱きしめられた。
「蓮っ……離してってば……」
「違う。ごめん、そうじゃないんだ、綾人」
泣きじゃくる俺に蓮が意味不明な言葉を紡ぐ。
「なにがだよっ……」
「情けないことだけど、俺、死ぬかと思ったんだ」
「……?」
蓮が何を言いたいのか分からず、涙目のまま彼の端整な顔を見つめる。
「俺、普段風邪なんか引かないだろ? この広い家で一人きりで寝込んでると、ろくなこと考えなくて。それで……死んじゃうなら、おまえに本当の気持ち、伝えておきたかったんだよ」
「…………え?」
「でも、体が回復して来るにつれて、今度はだんだん後悔して来て。まず何より男同士だし。おまえが俺の気持ちに引いて、離れて行ってしまうんじゃないかって心配した。だからさっきは、あの告白は忘れてくれって言ったんだ」
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