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第2話

好きかもしれない。 (玉置×甲田) 徨梁学園高等部#2 (甲田雅広視点) 入学式で外部生の彼を初めて見た時、まず目を疑った。 それは俺だけじゃ無かったようで、ざわつく新入生達の視線の先に、まるでそこだけ異次元を切り取ったような、ファンタジーの世界から迷い込んできたかのような雰囲気の少年がいた。 同じクラスの玉置裕司は、プラチナブロンドに白い肌と蒼い瞳という明らかに日本人離れした容貌で、更に加えて顔立ちが女性にしか見えなかった。 身長は150センチ弱と小柄で、ふっくらした頬や細い顎、長い睫毛と大きな瞳、透き通る果実のような唇。その整った配置はいっそ、人間離れしているようにさえ見えた。 ここ、徨梁学園は半寮制の男子校だ。 恐らく入学式であの場に居た誰もが、信じられない思いで彼を見つめていただろう。 寮でも同室となった俺、甲田雅広は、入学式から2ヶ月近く経った5月の終わり、玉置からの告白を受け入れて恋人同士になった。 幼稚舎の頃から徨梁学園に居る俺は、異性と出逢う機会なんて無かったし、かといって同性から想われることも無くて、ごく平凡に日々を過ごして居たから、あんな……というか、色恋沙汰とかどうやって向き合えば良いのかサッパリ分からなくてただ戸惑っていた。 多分、煮え切らない態度を取っていたと思う。 単純にどうしたらいいか迷って、何も出来なくて言えなくて。 でも玉置は、とても真っ直ぐに俺を見て、俺を好きだって言ってくれた。 混乱したけど、決して嫌じゃなくて、正直妖精のような玉置の容姿にもドキドキしてしまって、はね除けるなんてもう出来なかった。 覚悟決めて受け入れることにしたら、玉置が……笑うんだ。 ものすごく幸せそうに笑うんだ。 何でか、泣き出しそうになった。 俺を必要としている人間が居るのが新鮮で不思議で、同時に少し不安になる。 友人は沢山いるけど、楽しい時間を共有するって事よりも俺自体に価値を見出だしてくれているっていう相手はあまり居ない。 俺に価値なんてあるのか? それが、よくわからない。 付き合い出してからもう2ヶ月近く経つんだけど、実はまだあまり現実感がないんだ。 「雅広!ちょっと教えて欲しいんだけどいい?」 「うん。」 クラス中の注目がこちらに集まる。 同じクラスの梶並雪也は、玉置に勝るとも劣らない美形だ。 透き通るようなきめ細かい白い肌、サラサラの黒髪、長い睫毛に縁取られた薄茶の大きな瞳は濡れたように艶やかで。 声は少年のそれだが、一見して男だとは認識しずらい外見も玉置と共通している。 クラスの奴らは、雪也と玉置をついつい目で追ってしまうようで、その気持ちは理解できる。ここは男子校だし、ここまで見目麗しい人間は異性だとしてもあまり居ないから。 不躾な視線を向けられることも、雪也と玉置は慣れっこなんだろう。でも俺はまだ慣れない。いつも二人とも俺の側にばかり居るから巻き添えを喰らってしまってはいるが、本当は逃げ出したい。 「あんま甲田ばっかりアテにすんなよ、雪也」 不機嫌を露に言う玉置にヒヤヒヤする。 このクラスのみに限らないけど、雪也を盲目的に信奉する生徒は多い。彼は当たりが柔らかく、適度に厳しく有能で、決断が早くて合理的だ。つまり、出来る男。 そこに見た目の良さも加わって、ともすれば神格化されてしまいそうな勢いだった。 「雅広が大切なら、僕のことも大事にしておいた方がいいよ?いざとなったら僕が雅広も玉置もまとめて守ってあげられるし。」 「ほーほー、隠れゴリマッチョ様は言うことが違いますなぁ」 「隠れてないし。堂々マッチョですけど?」 「ヤロー共に『白雪姫』とか呼ばれてる奴が堂々マッチョとかギャグだろ」 最近の雪也と玉置は互いの気心が知れたせいかよく軽口を叩き合う。二人ともなんだか楽しそうではあるんだけれど、周囲に誤解を受けてしまいそうで俺はいつもオロオロしてしまう。 「け、ケンカしないで……」 「なんかここだけ見ると男子校だってことを忘れそうになるな」 「鳥山……」 鳥山未來(とりやまみらい)は、日焼けした肌にホストみたいな髪型の茶髪、進学校にしては珍しくちょっとチャラ男な感じで、身長は185センチの俺より10センチ低いくらい。俺と同じく幼稚舎の頃から徨梁学園に居る古株組だ。 昔からの知り合いではあるけどこれまでは特に親しい訳では無かったんだ。でも俺が外部生の雪也と友達になってからというもの、雪也と寮が同室の鳥山もついでみたいに一緒に過ごす時間が増えてきていた。 「甲田く~ん、一年の貴重なベル ファム二人とも独り占めとか半端ないな」 人懐こい笑顔で鳥山が言う。 「何それ、きっもちわるいこと言わないでくれる、未來……」 眉根を寄せる雪也と、 「ベルファンてなに?バファ○ンの親戚?」 さっぱりわかってない玉置。 「フランス語で美人のことなんだってよ。雪也と玉置が入学してから出てきた隠語ってより、元々は3年の天羽先輩のアダ名だったらしいけど。甲田は知ってるよな?」 「うん……。天羽先輩は有名だし……」 三年生の天羽(あもう)先輩は、確かに二年くらい以前は小柄で線が細くて可愛らしい顔立ちだった。雪也と少し似た感じだったかもしれない。 今は背が伸びて成長して、大分雰囲気が変わったけど……。 「え、天羽先輩って、生徒会長の?」 驚いたような声を上げる雪也は、生徒会の仕事もしていて交流があり、今の天羽先輩を知っているからだろう、首を傾げる。 未來が数回頷きながら、 「おう。高1の頃まではなんかな、メチャクチャ可愛かった。雪也をもうちょい繊細にした感じ?色素薄くて儚くした感じだったな」 未來が目配せして来たので同意を込めて俺も頷く。 「えー!じゃあ僕もあのくらい成長できるかな!」 「さあ……遺伝子によるんじゃね?」 「遺伝子か……。うちは両親共に小柄なんだよね……筋トレで変異起こしてくれないかな」 「鍛え過ぎると寧ろ身長止まるらしいけど」 「えっ……」 「もう手遅れなんじゃね?背中に筋肉で蟹の甲羅か鬼の面みたいのできてんじゃん。鍛え過ぎだろ。」 ちょっとびっくりして、雪也と鳥山を見る。玉置も驚いたみたいで、 「マジか!すげえな。なんなん雪也、徨梁最強でも目指してんの?」 武道っぽい構えのポーズしながら言う。 「まぁウチ進学校だし殆どモヤシ野郎しかいねえから、現時点でほぼ最強確定だとは思うわ……。 だって雪也な、親指だけで腕立て伏せ100回とか余裕でこなすんだよ。傍で見ててももう意味わからん。なんの修行だよ、サイヤ人かよ?」 「そういえば、うち一応空手部もあるのに入らんかったんか?なんで?」 「合気道部があったから。そっちがしたくて……ていうか僕空手部にも一応在籍はしてるよ?普段は合気道部に居るけど、試合の時だけ頼まれて出てる」 「雪也お前一体何しに進学校(こんなとこ)来てんの……格闘技究めるならもっと他に選択肢あんじゃねーの」 「いや、格闘技も筋トレも単に趣味だし、ウェイトや上背ある人に敵うほどの資質もないし食べて行けるようなレベルじゃないから……」 「めっちゃマジレス来た。コイツ本気ガチ勢だわ」 俺はいつも、三人が話してるのを端で聴いているだけで、気の利いた返しが出来るわけでも話題の提供が出来るわけでもない。 こんなボンヤリした俺と居て、玉置も雪也もよく退屈しないなと思う。 玉置は、俺を恋愛対象として好きだから。で説明つくけど、雪也は……そういえば、訊いたことなかったな。 「雪也は何で俺と友達になりたいって言ってくれたんだ?」 雪也は、入学式で新入生代表で挨拶をした。高校入試で編入してきた外部生と中等部からの持ち上がり組を合わせた全員の中でテストの点が一番良かったということだ。 でも外部生だから学園内のことは知らないので、俺が先生から案内役を頼まれた。 入学式のすぐ後、雪也は俺に友達になってくれる?って言ってくれた。 「初めて会ったときに、誠実で真面目な性格も控えめで落ち着いたところも凄く良くわかったから。 雅広は僕の癒しなんだ。大切な友達だよ。これからもよろしくね。」 眩しいほどの笑顔で人格を全肯定されて、俺の防御力が間に合わなかった。 「……っ、うん……よろしく……」 照れる。 しどろもどろで返して、それも更に恥ずかしくて顔が熱くて。 雪也はいつも真っ直ぐ誉めてくれるから、嬉しいけど、照れる。 すぐに玉置が、俺を見て口を半開きにしてショックを受けた表情をする。一瞬後には雪也を睨み付け、 「雪也お前、俺にケンカ売ってんのか」 とか怒気を孕んだ声で言うから驚いた。 だって今、雪也が強いって話してたばかりなのにどうして。雪也がそんな挑発を真に受けることは無いって知ってはいるんだけど、やっぱりヒヤヒヤする。 「えー、僕が怒られるの?訊かれたから答えただけなのに」 「俺の目の前で口説くとか頭おかしいだろ」 「ほんと玉置って余裕ないよね……。」 雪也が鼻で笑って、玉置がぎりっと奥歯を噛み締めた音が響いて、そして黙っていた鳥山がブハっと噴き出した。 「ひゃははは!おんもしれ!何故に甲田がヒロインポジションなん?なんでベルファム二人してこのデッカイ地味男子取り合ってんの?おもしれーっ!」 「甲田は地味じゃねーし超絶イケメンだし」 「取り合ったりしてないよ。僕は友達だもの。」 「わかったわかった。玉置も相手が天然過ぎて大変だな、頑張れよ。雪也お前ワザとやってるだろ。あんまからかってやるなよな。可哀想だろ。」 口を尖らせて拗ねた表情の玉置と雪也をまとめて宥めながら笑える鳥山の技量が、俺には羨ましかった。 俺のベッドで俺にしがみついてスヤスヤ眠っている玉置のつむじをぼんやり見ながら、急激な生活の変化にまだ慣れない。 昨日も玉置は俺のベッドに入って来て、俺を何度も好きだって言って、キスとかして、割と早く眠ってしまって、今日も当たり前みたいに俺のベッドに入って来て……。 俺は、自分の鼓動がうるさくて眠れない。 もうすぐ、夏休みだ。徨梁は進学校だから勿論夏期講習があって、寮生が帰省するのはせいぜいお盆の間だけ。 必然、玉置も俺も、夏休み中でも変わらずずっと一緒に過ごすことになる。 「きれいな、髪だな……」 ぽそ、呟いてそうっと撫でてみた。 ふわふわした白金の髪はキューピッドのようなクセッ毛で触り心地が良くて…… 「んん……?こうだ……?」 「あ、ごめ、起こした?」 「んーーー、もっとなでて……」 「っ!」 甘えた声で言われて、俺は固まってしまった。急に肩から上が熱くなって汗が吹き出す。 だめだ。 「甲田?どうし……」 「わっ」 俺に手を伸ばそうとする玉置から、咄嗟に飛び退く。 本当はベッドから逃げ出したかったけど、俺の方が壁際にいたから、びたり、壁に張り付くことしか出来なかった。 とにかく顔が熱くて、自分の手で顔の下半分を覆った。 玉置はそんな俺を見て上半身を起こし小首を傾げると、部屋の照明の薄明かりの中で俺をまじまじと見つめた。 「見たらだめっ」 「??」 照れて照れてどうしようもなくて、どうしたらいいか解らなくなった。 固まって動けない俺を、玉置は…… 「うわ、ほっぺたあっつ!もしかして熱ある?」 頬に口付けられ、唇が触れたまま喋られてゾクゾクする。 ぷにぷにした唇の感触がくすぐったい。 玉置は俺の頬をしばらくついばんで、それからペロッと舐めた。 「あ、だっ……め……」 寝間着代わりのTシャツの裾から手が入ってきて、俺の腹を撫でると、 「んー、熱は無さそう。」 言いながら、俺の耳たぶを軽く噛んだ。 最近、こういうことが多くて、俺は益々どうしたらいいかわからなくて……。 「甲田、好きだ。大好き……!」 玉置にがばっと抱きつかれて、あっという間にベッドに押し倒された。 ぎゅうぎゅう抱き締められて、玉置の華奢な肩や背中が見える。 上半身は淡いグレーのタンクトップしか着ていない玉置の、なめらかな白い肌が視界を占領して、俺は目を瞑った。 薄明かりの中であまりにも艶かしく光る、うなじや肩が目に毒で。 俺は、多分玉置を好きだと思う。 でも、俺の「好き」は、まだとても浅い。 玉置がどういう人間なのか、大分わかってはきた。 明るくて、裏表が無くて、甘え上手。 好ましい、とは感じている。 でも、俺はきっと。 玉置の外見に惑わされている。 玉置は俺の中身が、性格が好きだって言ってくれて、それを証明するみたいに毎日毎日愛情を示してくれる。それなのに、俺は……。 玉置の内面が一番好きなのかと訊かれたら、今はまだ直ぐにyesとは答えられない。 ただ、これから先好きになれるだろう、とは思う。 でも今はまだ、多すぎる接触に慣れなくて、喜んだり楽しんだりするよりも困惑が強い。 触れたら壊してしまいそうな可憐な玉置に、自分から何かをすること自体が、まだ早いと感じるし、俺の想いの程度で軽率な真似はしてはいけないと思…………… 「た、まきっ………ええっ、ちょ、ちょ、うわわわわっなにして………えええええ」 「なめるだけ。痛いことしないから、じっとしててな」 「ひぅっ……っあ、ウソ、うそ、なに……や……」 「かーわい、甲田、きもちい?」 俺の方が頭一つ半くらい背が高い。 性別不詳な玉置と違って、誰がどうみても男だし、どこもかしこも骨張ってて筋肉質で、厳つい。 小柄な玉置と比べると大人と子どもくらい体格に差がある。 でも、この状況って……。 玉置の頭が、俺の下腹部に埋まって揺れてる。 くちのなか……? あつい。 どうしよう、なんでこんなことに??どうしよう、逃げ出したい。 こんなこと、だめだとおもう。 どうしよう…… 「やだ……たまき、やだ、やめよう、やめ……っ」 「イキそう?飲まして。甲田の、飲んでみたい。」 「い、いやだ……っ」 「可愛い……びくびくしてる……」 どこか嬉しそうに弾んだ声色に、固く閉じていた瞼をつい開いてしまった。 「っ、!!」 少し頭を起こした玉置と目が合う。直ぐに艶然と微笑んだ玉置は、当たり前のように俺の股間を弄んでいる。 玉置の唇が、綺麗な顔が、俺の性器を愛撫しているのをモロに見てしまって、俺は完全に思考停止してしまう。 くらくらする。比喩でなく、あまりのことに目が回って……。 「うぅ………っっ!……」 俺は結局、大して抵抗も出来ず玉置の口の中で果ててしまった。 涙が出て、止まらなくなって、恥ずかしくてたまらなくて、どうしていいかわからなくて。 目を覆って手の甲で瞼を擦っていたら、両足を持ち上げられた。 「えっ……?」 「じっとしてて。」 俺は、どうやらとんでもなく考えが甘かった。付き合うっていうのがどういうことなのか、まるで分かっていなかった。 玉置が、しようとしてることがわからなくて茫然としている間に、他人に触られたことがない場所を暴かれて、こんな、こんな……。 「あ、や……っ」 まずい。これ。さすがに、にげないと。 ぬるり、玉置の舌が俺の睾丸から尻の谷間に滑り、明確な意思を持って、そこに口付けた。 口の中がカラカラだ。 喉が乾きすぎて、ひりついて、声が出ない。 ぴちゃ、ちゅぴ、なんでそんなところから濡れた音が聞こえるのかももう、考えたくなかった。 完全にキャパオーバーしてしまった。こんな時どうしたらいいかなんて、誰も教えてくれなかった。 そもそも、俺は、これが嫌なのかどうかすらわからない。 だって。 こんな強烈な快感には、経験がなくて。 「いやぁ、いやあぁ、も、やだやだやだぁぁっ」 口では嫌だと言えるのに、身体が動かない。浅ましく快感を追って、自分のひざが揺れるのをぼんやり見ているだけで、玉置よりずっと力が強いはずの腕は、枕を抱き抱えているだけだ。 柔らかく熱く濡れそぼった小さな筋肉が、俺の尻穴を出入りしている。 「あ……っ……ぅ、そ……っ」 こんな、え??なんで?なんでそんなことするんだ??? 俺の思考は最早混乱を極め、身体共々フリーズしてしまっていた。 「甲田……俺、入れてみたい。いい?」 「やだっ」 「ごめん、我慢できない」 「……え……?」 散々濡らされた場所に、熱い塊がのし掛かって、それは案外つるりと俺の体内に侵入してきた。 一瞬後。一息に最奥まで突き進んできたものの、あまりの巨きさに息が詰まる。同時に俺の腹の内部が激しくツッた。 中学の頃、脚がつったことがあるけど、完全に同じだ。あの苦痛が、今、腹の中で起きた!! 痛み?熱さ?わからない! 腹の中の筋肉が硬直して、内側から破けそうだ! 「がっ……っは、くぅう、むり、むり、ぬいて」 息も絶え絶えに懇願すると、玉置は腰を引いてくれた。 でも、抜いてくれない。 「む、むり、ほんとに、ほんとに、むり、おねが、ぬいて」 必死に懇願する俺に、玉置は涙目になって頬を膨らませる。 「だって、だって……甲田としたかった。ずっとしたかったんだもん。」 でも、もうそんなレベルの事態では無かった。俺は堪えきれなくて嗚咽混じりになった。 「や、やだ……くるし、いた、いたいから、くるし、か……っら、お、おねが……っ」 「うう……わかった……」 渋々ながらもやっと抜いてくれて、それでも直ぐには苦痛が消えなくて、俺は暫くの間腹を抱えて丸まって唸るしかなかった。 そこまで見てやっと玉置は俺の負ったダメージが分かったようだ。 一転して、平謝りされた。 「ごめん、ごめんなさい、オレ……っ」 「…………」 俺は、初めてまともに玉置の股間に聳えるものを見てしまった。 あまりの巨きさに血の気が退く。 あんな……あんなもの……入るわけないだろ。 すぐ前にある玉置の腕より太いじゃないか。おまけにやたら長い。 これ、まともに入ったら、もしかして俺のヘソの裏あたりまで届くんじゃないのか……? 「む……むり……むちゃくちゃ過ぎるよ、たまき……っ」 「ごめん、甲田。ごめんなさい」 玉置は謝りながら横倒しに丸まった俺の背中を優しく撫でてくれた。 程無くして俺が回復すると、 「強制終了だったけど、でも、俺の童貞甲田に捧げちゃった……」 ぽつり、玉置が照れたように、嬉しさが隠しきれないといった様子で呟く。 「……………な……」 「俺、次はもっと痛くないように頑張るからっ」 「え、………次?!」 次、があるのか……?! ていうか。なんかおかしくないだろうか? 俺は、長身だし、普通に男らしい外見だし、勿論力だって玉置より強いし。 玉置は、ほら、俺を見上げる儚げな美貌も俺を抱き締める白い腕も、こんなに華奢で可憐で、女の子みたいな見た目だし……だから、俺は、……俺は、ついさっきまで自分が男側の役割をするんだと信じきっていたし、こんなことになるなんて…………。 こんな……俺……えっ……俺……? 俺、セッ………………。 これってもしかして、セックス、しちゃった………のか…………? 想定外過ぎて考えがまとまらない。 「すーきーだー!!」 幸せそうな表情した玉置にぎゅうぎゅう抱き締められて、俺は自分が根底からひっくり返されたような衝撃に戸惑うしかなかった。 あまりのことに、殆ど眠れなかったこの夜の明け方に俺は少しだけ昔の記憶を夢で見た。 義母と父を罵っていたのは、父の妹である叔母だった。 俺はあの時5歳になったばかりで、義母はお腹が大きく、その中に赤ちゃんがいた。 俺の産みの母は、俺が生後2ヶ月の頃のある日突然産後の回復が悪かったのか出血死してしまった。 明け方帰宅した父によって発見された時、母が死んで数時間放置された俺は衰弱しており、その後しばらく入院したらしい。 退院後は義母が俺を育ててくれたので、俺が母として記憶している相手は義母だけだった。 叔母は、産後調子の悪かった産みの母を独りで新生児の育児に当たらせた父を激しく詰っていた。それから義母に、俺がいるのにどうして子どもなんか作ったんだと、恥を知れと詰め寄っていた。 『どうせ虐待するに決まっているから、自分が雅広を引き取る、兄さんは雅広が可哀想だと思わないのか』叔母は泣きながら怒っていた。 産みの母が亡くなった日、父は義母と過ごしていたのだと。俺が産みの母の胎内にいる時から父と義母は不倫していたのだと。 でも義母は、血の繋がらない俺を必死で育ててくれたと思う。 本物の母子の愛情とは違ったのかもしれないけれど、俺には記憶が無いから比較は出来ない。 虐待なんてされていなかった。夕方までは保育園と幼稚園が組合わさった自宅近くの子ども園に行き、父が休みの日には家族3人で水族館に行ったり動物園に行ったり、俺の好きな電車のおもちゃのイベントにも連れて行ってくれていたし、家の中でだって両親は俺を邪険になんてしていなかった。 でも俺は、あの時。 堪えきれず涙を流す義母を守ってあげられなかった。 いつも俺には優しい叔母の、あまりの剣幕にびっくりして固まって何も言えなかった。 あの時守ってあげられていたら、俺の家族は今とは違う形になっていただろうか。 『かあさんをいじめるな!』 喉まで出かかった言葉を声に出せていたら、今頃俺は両親と弟と一緒の家で眠っていたんだろうか……。 父は結局俺を叔母には渡さなかった。でもあの後、義母はとても不安定になった。今考えると当然だとも思う。弟が産まれると更に不安定になり、目に見えて俺を避けるようになった。 食事や風呂や、身だしなみや持ち物や……身の回りのことの何もかもがまだまだ独りではできなかった俺の姿が、明らかに手入れされなくなってしまったことをこども園の担任の先生に指摘され、義母は更に追い詰められてしまった。 父には仕事があり、俺を構っている余裕のある人間は家の中に居なかった。 俺はその後、自宅近くのこども園から徨梁学園の幼稚舎に移され、小学校からは寮生になって、今でも家族とは離れて暮らしている。 起き上がる前に瞼をごしごし擦っていると、小さな手のひらに頭を撫でられて俺はびっくりして小さく跳ねた。 「甲田、大丈夫?まだ腹ん中いたい?」 目を開けるとすぐ目の前に、零れ落ちそうに潤んだ大きな蒼い瞳。 「俺、急ぎ過ぎた。調子に乗ってた。ごめん……。」 泣いていたことがバレてしまって、バツが悪くて黙っていると、 「でも、好きだから。俺ほんとに、甲田のことめちゃめちゃ好きだから。それだけはわかって。」 物凄く真剣に告げられて、自分の頬が緩むのを感じる。 すりガラスの窓から差し込む明るい陽の光の中で、ピンクに色づいた指先や頬、紅い唇、玉置の白い肌と白金の髪。眉も睫毛も深い蒼色の瞳もキラキラ光って、どれも眩しくてキレイで。 美しいっていうのは、凄いことなんだなと改めて思う。 俺の葛藤や世間一般の常識も、最早どうでもいいことのように思えてきて……。 自分の置かれた状況や生い立ちや、そんなものがまるで幻想世界の問題であるかのように輪郭をボヤけさせていく感覚に戸惑う。 そのくらい、『今』が鮮烈で、俺の今までを容易に塗り替えてしまえそうな程濃厚で。 「うん……いいよ。玉置なら、いいよ。」 俺を欲しがっている人間がいる。 必死に求められている。 玉置は俺を好き。 これって、物凄いことなんじゃないのか。 なんにも根拠なんてないけれど、今率直にそう感じた。 細い腕で一生懸命俺を掻き抱く玉置の胸元に鼻を押し付け、呼吸して、その匂いを好きだと思う。 玉置があんまりにも素直に想いをぶつけてくれるから、諦めて冷えたまま放置していた孤独感がぽうっと暖められて、また泣き出しそうだ。 もしかしたら、俺は。 望んでもいいんだろうか。 俺が現状を受け入れてさえしまえば、このまま手に入れることができるんだろうか。 玉置の神秘的な容貌にすっかり現実感を奪われて、思考が定まらない。 もし、俺が本当に心から望んだとして、玉置は俺のものになってくれるんだろうか。 どろりと、何かが腹の底から這い出してくるのを感じる。 欲だ。 ずっと昔に見なかったことにして捨てたつもりでいた、欲だ。 あいしてもらいたかった。 おれをほしがってもらいたかった。 だれかに。 根底に沈めた欲の上で、俺は面白味は無くても真面目で、信頼される人間であろうとしてきた。 その甲斐あってか、友人は多い。 俺はごく単純に、誰にでも好かれたかったから、自分が独りぼっちで寂しかったから、いつも当たり障りなく、ただ善良でいたんだ。 でも。 俺の全てを根刮ぎ奪おうとするほど欲しがる人間なんて、これまでは現れてくれなかった。 玉置が、はじめてだ。 いいかな。と思う。 この暖かい場所に居られるならいいかな。 驚いてばかりだし、ショックもまだまだ大きいんだけど……もう、このままでもいいかな。 この小さな恋人の傍が、やっと見つかった俺の居場所。 きっとそういうことなんだろう。 玉置の内面も、近いうちに外見以上に好きになれそうな……予感がした。 End.

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