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第5話

「621……621……」  僕は披露宴会場から離れ、用意してもらった部屋を探して廊下を歩いていた。  手にはカードキーを握り締めている。  僕はようやく部屋を見つけて部屋に入ろうとした。  だけどまた具合が悪くなってきた。  頭がぼーっとして……手が震え、カードキーをうまく翳すことが出来ない。  なにか悪い病気なんだろうか?  そう思っていたら、僕の手に男の人の手が重なって。  鍵が開いた。 「皇、さん?」  僕は驚いて声を上げた。  僕に手を差し伸べてくれたのは、ずっと憧れていた人だった。  どうしてここに皇さんがいるんだろう。 「私の……私の番だ……。  会いたかった……!!」  僕は耳元で皇さんに囁かれ、立っていることが出来なくなった。  僕の気のせいじゃなかったんだ。  中等部の卒業式で目が合った時、僕は即座に運命の相手が皇さんだと感じた。  だけど僕にとって皇さんは遠い人で……。  もともと、皇さんは桜花学園でも有名な人だった。  智子ねえは同級生だったから、いろいろ皇さんの武勇伝を聞かされてたし、ミーハーな僕の同級生が皇さんを隠し撮りした写真を見せてくれたこともあったから、どういう人かは良く知っていた。  学業もスポーツも優秀で。  しかもとびきりの美形。  さらには皇グループの跡取り息子。  だから僕にとっては本当に雲の上の人で。  話しかけたり、ましては、会いに行ったりするなんて考えられなかった。  だから僕は、卒業式の後も、僕が皇さんの番な訳がない、気のせいだと言い聞かせた。  まさか皇さんが僕に会いたかったなんて、皇さんに言われるまで全然思いもしなかった。  僕はもう立っていられなくなった。  そんな僕を、皇さんは支えてくれて……そしてもつれ合うように二人で部屋に入った。  そんな風に、体が触れあってしまうと……もう止められなかった。  激しいキスを繰り返しながら、皇さんに名前を聞かれた。 「そう、た……。き、ざき、そうた」  僕がそういうと、皇さんは嬉しそうに微笑んだ。 「颯太……」  名前を呼ばれたただそれだけなのに。  僕の理性はあっけなく崩れ落ちて。  激しく求めてしまった。  皇さんの全てを。  どうしてあんなに大胆になれたのか、今でも良く分からない。  だけど、頭の片隅で、僕はずっと待ってたんだ、と思ってた。  皇さんが現れるのを、馬鹿みたいに、子供みたいに待ってたんだと、そう思ったんだ。  それなりに好きな人だっていたのに。  でも、僕には皇さんしか、ダメだったから。  もう我慢しなくていいんだって思った瞬間に、僕のリミッターは振り切れてしまったみたいだ。  どこを触っても、どこに触れられても、僕の体は簡単に燃え上がった。  後孔がじんじんとして濡れそぼるのを感じ、僕は淫らに、誘うように、その場所を皇さんのペニスにこすりつける。 「あっ、ああっ、もぉ、もぉ、やっ……!  はぁ…ん。あああ、ああ……!!  ……れて……もぉ、が、まん……む、りぃ……!!  いれ……て……!!!」  皇さんが、苦しそうに息を吐きながら僕の中に入ってきたとき、僕はあまりの衝撃に背筋を大きく反らせた。  痛みと快感が強くて激しくて、僕は息もできなかった。  それからあとのことは、意識が飛んで断片的にしか覚えていない。  ただ二人で、狂ったように体を貪り合ったことしか、覚えていない。  だけど時折僕の顔を覗き込む皇さんの顔や、僕と同じように快感に身を委ねて切ない表情を浮かべている皇さんの顔がフラッシュバックする。  でも、ふと気づいて目を覚ますと、部屋には皇さんはいなかった。  携帯電話の音が部屋に響く中、僕はぼんやりと部屋の状況を見渡した。  普通に、ベットメイクされた部屋で、セックスの痕跡などなにもない部屋。  ホテルのバスローブを着ていたけど、それ以外は何も異常がなかった。  それから僕は電話に出て智子ねえと電話しながら、混乱しながらも今の状況を頭の中で整理した。  おそらく、ヒートだった。  予定日が近かったから抑制剤を服用していたけど。  淫らな妄想がいつもより鮮明だっただけ。  ヒート中はよくあることだ。  馬鹿だな、僕は。  やっぱり、皇さんが番だなんてありえない。  だけどいい加減恋人作らなきゃ。  こんなリアルな夢見るなんて、僕はどれだけ欲求不満なんだ。  僕は服に着替えて部屋を出た。  そして、その晩は夕食後も夜遅くまでみんなで騒ぎ合い、美紀ねえの結婚を祝った。

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