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選択の先 最終章・柒年の哀④

「最近の中也君の様子は如何かな」 「知っての通りじゃ」  特別な許可を受けた人間しか入室を赦されないポートマフィア首領森鴎外の執務室。招かれた紅葉は窓の外に広がる横濱の風景を見遣り乍ら溜息を落とす。  心配停止状態から奇跡的な蘇生を遂げた現幹部の中也。元幹部であり当時は中也の相棒であった太宰との心中の末である事は周知の事実。そして其の太宰と中也が相棒以上の結び付きを持つ関係である事は森や紅葉を含め一部の人間には既知であった。  亦、太宰の嘗ての部下である遊撃隊長の芥川が太宰に師以上の想いを抱いていたのは事実で、今回の暴走により組織として中也という戦力を失い掛けた。芥川は自ら懲罰を申し出て、其れで凡ての償いが出来る訳では無いが中也は芥川に何かを云う事は無かった。  静養を明けた中也は太宰に逢いに行ったらしいと訊いたが、其の結果が今の状態だった。傍目に見れば何も変わらず、以前よりも任務に精を出すが、其の姿はまるで出逢った頃其の物で、部下や仲間は大切にしてい乍らも其の実凡てを一人で背負い切ろうとする姿は信頼出来る存在が居ないかの様に。  其れは芥川が敬愛する師の背中に似ている。信頼とは甘えでは無い。背中を預ける事が出来る存在に芥川はなる事が出来なかった。太宰が其れを望んだのが中也であり、己以外の誰も信用しない太宰が唯一心からの信頼を寄せた相手だった。  ――初めから信頼を抱いて居なかったあの人と、存在する筈の信頼を喪って仕舞った人では其の意味合いは大きく異なる。  森と紅葉の会話を扉の外から訊き及んでいた芥川は自らの罪を償うべく、師から賜った外套を翻した。

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