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神父見習いと盗賊②
まったく…ちょっと調べ物をしようと書庫に来ただけなのに、どうしてこんな目に。
見ると、少年は本棚から本を取り出しては表紙を確認し、乱暴に床に投げ捨てていた。
あ、それ、5万ペリーもする高いやつ…。
手を縛られている僕は、どうすることもできずにその光景を見つめているしかなかった。
ああ、僕の茶い癖っ毛が、ほこりをまとってひどいことになっている。
「ああ、ちくしょう!」
少年は何かを探しているようだが、なかなか見つからないようで、イライラとしていた。
落ちてきたときにかなり派手な音がした。
この場所が教団の建物内のかなり奥まったところにあるとはいえ、誰かしらは音を聞きつけただろう。
そのうち、誰かがこの部屋の様子をみにくるはずだ。
少年は、それまでに探し物を見つけ出したいんだろう。
でも、教団の建物に侵入してまで(それも、かなり手荒な方法で)見つけたいものって、なんなんだろう?
「えーっと、君、さっきから何を探しているの?」
好奇心のあまり訪ねて見ると、イライラとした目がこちらに向いた。
「お前には関係ない」
吐き捨てるような言い方に、ちょっとだけムッとしてしまう。
「その様子から察するに、君が探しているのは何かの本だろ? ここの書庫にはさ、本が1万冊あるって知ってる?」
僕のその一言に、少年の動きがピタリと止まる。
僕は気を良くして続ける。
「表紙の文字を一冊一冊確認しているってことは、どんな見た目かもあんまり知らないんじゃないの〜? 全部確認しようとしたら、一体何日かかるんだろうねぇ?」
何も言い返せずに固まる少年に、僕はさらにたたみかける。
「王国直属ってこともあって、ここの教団はなかなか腕っ節のいい警備の人がうじゃうじゃいるよ。もうすぐ駆けつけるんじゃないかな?」
「…お前、ムカつく野郎だな」
「でも、使えるよ」
そう返す僕を、少年が怪訝そうな顔で見つめる。
「何を隠そう僕はここでは”本の虫”って呼ばれているからね! 書庫内の本がどこにあるか、ちゃんと把握してるんだな、これが」
「へえ…」
少年が、意外そうに僕を見る。
なんだ、そんな顔もできるんじゃないか。
今まで僕のことを哀れな生き物を見る目でみてたくせに!
「なるほどな…なんだ? 教えてくださいお願いします。って地面に頭でも擦り付ければ教えてくれんのか?」
「そんな需要はどこにもないからやめて」
「おい…」
「頭なんて擦りつけなくても、教えてあげるよ。僕のお願いを聞いてくれたら、ね」
そう言って笑う僕に、少年もまた笑う。
「そういうことか…さすが教団の人間だな。子供だろうがしたたかだ」
「こ、子供!? ちょっと、僕もう20歳なんだけど」
慌てて否定すると、少年のブルーの瞳が驚きに見開かれる。
「は!? 嘘だろ!? どうみても15歳の子ども…」
「誰が15歳だ!? それをいうなら、君だって17歳くらいに見えるけど、そんな子どもがなんでこんなこと…」
そんな喚きあいを、僕たちはしばらく続けているうちに、二人ともすっかり疲れ果ててしまった。
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