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神父見習いと盗賊④
「なんで助けを求めなかったんだ?」
ホッと息を吐いていると、先ほどまで僕を襲おうとしていた強盗くんが、複雑そうな顔でこちらを見つめていた。
「なんでって…まあ、恩返し、的な?」
「恩返し?」
ワケがわからない、と言いたげな強盗くんに「だって…」と切り出しながら、上半身を起こして、倒れた本棚を指差す。
「”あれ”から僕を救ってくれただろ?」
そう言うと、強盗くんは決まり悪そうに顔をそらした。
実は、強盗くんが窓からワイルドダイブしてきたとき、無様に本棚に押しつぶされることなどなく、見事な着地を決めていたのだ。
しかし、あまりにワイルドすぎて、その衝撃から、老朽化していた本棚が倒れてきた。
すぐ近くに立っていた、僕の方に。
この盗賊くんは、本棚に押しつぶされそうだった僕を突き飛ばし、代わりに自分がその下敷きになってしまったのだ。
で、冒頭に戻るってワケ。
「僕もさすがにそこまで馬鹿じゃないよ。目の前にいる人が、悪い人かどうかぐらいわかる」
「ったく、ただの間抜け野郎じゃないってわけか。本当に調子狂うわ」
毒気を抜かれたようため息をつき、強盗くんが背を向けた。
「もう退散することにするぜ。お前と話していると脳みそから花でも生えてきそうだ…目的の物も、手に入れたことだし」
なんのことだ? と不思議に思っていると、強盗くんが左手をかかげた。
その手には、さっきローブの中に隠していたあの本が握られていた。
「あ! それ、いつの間に!?」
「お前が処女の小娘みたいなことを叫んでいる間にだよ」
やられた!
セクハラされた挙句に本を奪われるなんて!
「汚いぞ、強盗くん! 約束も果たさずに本だけ奪っていくなんて!」
「…ルーだ」
「え?」と首をかしげる僕を振り返り、ぶっきらぼうに話す強盗くん」
「強盗くんじゃない。ルーだ」
「ルー? それって、君の名前?」
僕の問いには答えず、ルーはニッと笑い、扉のドアノブに手をかけた。
「次からは変な男に簡単に気を許すなよ? じゃないと本当に襲われちまうぜ? なあ、リタちゃん?」
「なななな、襲われ…いや、リタちゃんって言うな! 僕は男だ!」
僕の叫びを無視して、ルーは扉から出ていってしまった。
その後、どこを探してもルーの姿は見当たらなかった。
結局僕は神父様たちに彼の存在を打ち明けることはしなかった。
もちろん、あの本が盗まれたことも言っていない。
まあ、書庫にはほとんど人は来ないし、バレることもないだろう。
嘘をつくことに対しては良心が痛んだが、どうしてもルーのことを人に言いたくなかったのだ。
僕はしばらく経ってもルーのことが頭から離れず、いつも以上に教団の備品を壊してしまい、神父様に激怒されたりと、散々な日々を送った。
そんな彼と、近々再会することになるとは、この時の僕はまだ思っていなかったのだった…。
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