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危険な再会②

「きょ、兄弟と一緒に住んでいます」 とっさに嘘をついてしまった。 ああ神よ、どうか僕をお許しください。 「兄弟? その子も、君みたいに美しい白い肌と金色の目を持っているのかな?」 すすっと、おじさんの手が僕の腰に回る。 指輪が当たって痛いんだけど。 距離の近いおじさんだなぁ。 「え? えーと、その、僕の兄弟は…えっと、僕とは違って色黒で、目は青色で…」 そこまで行って、ハタと自分が妙なことを口走っていたことに気づいた。 色黒の肌に青い目って…。 ぼんやりと頭の中にうかんできた”ある人物”の姿に、慌てて頭をふる。 ロザイン様へのお祈りのとき。 教団でのおつとめのとき。 ベットに入り、目を閉じたとき。 あの闇夜のような黒髪が、頭のかたすみによぎってくるのだ。 書庫で薬草のことを調べているときなんて、特にひどい。 急ごしらえで直したステンドグラスをみるたびに、最後に見た皮肉たっぷりの笑顔を思い出す。 ああ、やっぱり僕は疲れているみたいだ…。 「どうかしたのかい?」 ぼんやりと考え事をしていた僕に、おじさんが不思議そうに声をかける。 「あ、いや、なんでもないです」 「そうかい? ああ、そうだ。よかったら私のコレクションを見に来ないかね。一般人は近寄らせないのだが、素敵な君には特別に見せてあげるよ」 おじさんのこの誘いは断った。 今はケムケム草を手にいれることが先決だ。 「まあまあ、そう言わずに。私のコレクションはあの倉庫の中にあるんだ。じっくりみるなら今のうちだよ」 「えっあの倉庫って…競売にかけられる品が運ばれた!? ケムケム草があるところですよね?」 まさかの知らせに僕が驚いていると、おじさんは得意げに笑って頷いた。 「北方の珍しい洋服や貴重な宝石もたくさんあるよ。行くかい?」 「ぜ、ぜひぜひ!」 どうしてこのおじさんが僕を誘ってくれたかわからないが、ケムケム草をゲットできるかもしれないチャンスだ。 あの倉庫には色々な出品者が出した物品があるから、ケムケム草はこのおじさんが出したものかはわからないけど、とりあえずついて行ってみよう! やっぱり僕ってツイてるかも! 先ほど門前払いされた倉庫の入り口に行くと、警備をしていた人たちが驚いた様子でおじさんに頭を下げた。 おじさんと一緒に中に入るとき、警備の人たちが僕を変な目で見ていたけど、あれはなんだんだろう? まあとにかく、無事倉庫の中に入れたわけだ。 倉庫の中は薄暗く、レンガ造りの壁にはめ込まれたガラス窓から差し込む日光だけが灯りの役割をしていた。 かなり奥行きがあるらしく、競売にかける品が入れられているらしい木箱がそこかしこに積まれていた。 おじさんが舌打ちする。 「全く…貴重な品々を乱暴に扱いおって。ものの価値もわからん貧乏人どもが」 そんなおじさんのつぶやきも気にならず、僕はケムケム草を求めてあたりを見回した。 「ほら、こちらへおいで。まずは絶滅危惧種である流星鳥(りゅうせいちょう)の尾羽を見せてあげよう。この鳥の特徴は夕暮れ時のように美しい紺碧の羽を持っていて、なんと月の光を浴びると星のように輝くんだ。夜空を飛ぶその様子が流星のようだから、この名前が…」 木箱を開け、日の光に照らされる青い羽を僕に見せながら何やら解説していたおじさんのところに、警備らしき男の人が走りよってきた。 「ヘクセン様、少しよろしいですか?」 「なんだ」 得意げに話していたのを邪魔されて、おじさんは少し不機嫌そうだ。 「実は子どもたちが…」 何か言いかけた男の人をさえぎり、おじさんが僕の方を見る。 「ここで話すな。あっちで話を聞こう」 そういうなり、おじさんは僕に「少しだけここで待っていてくれるかい?」と言って、警備の人と一緒に立ち去ってしまった。 なんだか、僕に話を聞かれたくないみたいだな。 ポツリと一人残された僕は、どうしたらいいのかわからずにぼんやりと青い羽を見つめていた。 さっきのおじさんは今までと様子が違って見えたなぁ。 いや、最初から変なおじさんなんだけど、今まではニコニコ笑っていたのに、警備の人と話していたときにはちょっと怖い顔になっていた。 何かよくないことがおこったのかな?

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