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危険な再会③
「ちょっと、そこの坊や」
突然背後から肩に手を置かれ、僕はおどろいて飛びあがってしまった。
慌てて振り返ると、警備の服を着た男の人が立っていた。
さっきの人とは違う人物みたいだ。
こんなに暗い中だというのに、帽子を目深にかぶっている。
「こんなところで何をしているのかな? パパとママは?」
その質問に、思わずため息がでる。
さっきから何でみんな「パパとママは?」って聞いてくるんだよ。
どう見たって立派な20歳の男に見えるはずなのに。
「あの、すみません、僕は坊やなんかじゃなく、れっきとした…」
「20歳の男…だろ?」
ん?
警備の人にさえぎられ、僕は首をかしげた。
なんで僕の年齢を知っているんだ?
暗くて顔はよく見えないが、警備の人が笑っているということは気配でわかった。
「ついでに言うと、1万冊の本がそれぞれどこにあるか記憶している本の虫で、初対面の盗賊を”悪いやつじゃない”って言っちまう脳みそお花畑野郎…だろ?」
「え、その話しって…」
ほんの一週間前に教団の書庫での出来事になぞらえたことを話されて、僕は戸惑いをかくせなかった。
警備の人が、ゆっくりと帽子を脱ぐ。
まさか…。
「お前って、本当に危機感のない変人ちゃんだな」
帽子の中から現れたのは、この一週間ずっと僕の頭の中から離れてくれなかった、あの強盗くんの顔だった。
「き、君は…ルー!?」
「おいおい、あんまり俺の名前を叫ばないでくれるか? いま仕事中なもんでな」
警戒するように青い瞳で周囲に目を配るルーが、皮肉たっぷりな表情で笑う。
「あんたみたいに正面からご招待を受けたわけじゃないんだ。あのおっさんも趣味が悪いね。こんなちんちくりんな変人に目をつけるなんて」
「ちんちくりん…? き、君はなんでここにいるのさ!? その警備の格好は?」
慌てて言い返すと、ルーは呆れたようにため息をつき、手袋をはめた指先で僕の額をつついてきた。
「この中には綿でも詰まってるのか? 高価な品々があるところに盗賊が現われたってなると、やることは一つだろ。そのためにわざわざ変装までしてんだよ」
「君はまた盗みをするつもりか? あ、て言うか、あの時の約束まだ果たしてもらってない! いつその頬のやけど跡を見させてくれるのさ」
僕の抗議の声を、ルーは完全に無視した。
「さてさて、お兄ちゃんはお仕事の時間だから、かわいい弟ちゃんはさっさと出て行くんだな。あの変態野郎が帰ってくる前に」
「だ、だめだよ! 物を盗んだら罰を受けるんだよ! そもそも、なんだよ、お兄ちゃんとか弟ちゃんって…」
「だって、俺らは兄弟で一緒に住んでいるんだろ? それとも、お前の周りには、褐色の肌に青い目の知り合いが他にもいるのか?」
からかうようなルーの言い方に、僕はふと嫌な予感におそわれた。
「ちょっと待って。君、もしかしてずっと僕のこと見てたの…?」
「門番に飴をもらって喜んでいるところからな。よかったな、坊や」
「な、なんで声をかけてくれなかったの!?」
なんてことだ。
何十分も前からルーに見られていたなんて。
「行動がお粗末すぎて見ていられなかったよ」
とか言いつつずっと見ていたくせに! もう!
「久しぶりにあった弟ちゃんとゆっくり話していたいがそろそろ時間だ。目当てのものも見つけたし、お前はもう出て行け」
しかも弟ちゃんってなんだよ。僕の方が年上(多分)だぞ!
ルーがおもむろに手を伸ばすと、さっきまで僕が見ていた流星鳥の羽をつかんだ。
「お前のおかげで目当てのものも見つかったし、俺もそろそろ消えさせてもらうぜ」
「あ、こら、だめだって。それはあのおじさんのものなんだから、元の場所に戻さなくちゃ!」
僕がルーの手から羽を取り戻そうとした、その時。
ピタリとルーの動きが止まった。
どうしたの? と聞こうとした僕の口を、ルーの手がふさぐ。
今までのふざけた様子から一変した真剣な表情に、僕は何も言えなくなった。
ルーが、少し離れた暗がりを睨みつける。
しばらくすると、そちらの方から複数の足音が聞こえてきた。
ゆっくりとだが、確実にこちらに向かってきているのがわかる。
きっと、警備の人たちだ。
「ったく、こんなところで油を売っている場合じゃねえな」
小さく舌打ちをしたルーがあたりを見回す。
そうだ、ルーは勝手にここに入ったら、警備の人に見つかるのはまずいんだ。
そう思った瞬間、僕はとっさにルーの腕を掴み走り出していた。
幸い二人ともなめし皮のやわらかい靴をはいていたから、倉庫内に足音がひびくこともなかった。
「お、おい、何してんだよ!?」
さすがに驚いたのか、小さな声で抗議してくるルーを無視して走り続ける。
下手に抵抗をしたら警備にバレると思ったのか、ルーは素直に僕についてきてくれた。
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