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車に乗せられ、高層マンションに着いた。エレベーターで最上階まで上り 大部屋に連れてこられた。 「…汚いから風呂入って綺麗にしてこい。その後に話す」 服を渡され、風呂場に押し込められた。言い方は腹立つが確かに汚い姿だった。渋々と入り、軽くシャワーだけ浴びてすぐに出た。ポタポタと髪を湿らせ、さっきの部屋に戻ってきた。 「拭け、バカ」 「…さわんなっ、気持ち悪い」 髪を拭こうと伸ばした手は払いのけ、久慈の横を通って悠然とソファに座る。 「早く話してよ。久慈さん」 生意気な態度に舌打ちしながら久慈は向かい側のソファに座った。 そして、鞄から一枚の紙を出された。 出されたものを見ると何かの契約書。 その内容は驚くものだった。 一、兄の婚約を破談にすること。 一、両家の関係を良好にすること。 一、二年以内に成し遂げること。 一、約束の日までは絶対会わないこと。 上記の条件を満たした場合、速水雨は久慈文人を拒否する事なく番になり、一生共にすることを約束する。 「はぁ…?っ何これ…!」 「お前と結んだ契約書だ。両家の関係が変わって今まで悩んでた壁はないし、あいつの婚約も破談にした。これでいいだろ?」 「はぁ!?知らないし、書いた覚えもない!!」 見覚えない契約書に驚倒して頭が混乱していた。しかも兄さんの婚約って何!? 「待たせたと思うがそこまで怒るものか?」 「こんなの知らないしっ、偽装だろ!」 苛立ちに任せ、くしゃくしゃに掴んで契約書をビリビリに破った。 「同じの契約書はあと4枚あるし、直筆のサインもしてある。これ作ったのお前だからな?」 「…っ!!」 久慈の手にはさっき破った物と同じものあった。 「そんなに怒るなよ。この前は悪かった。久々にΩの匂いに当てられて理性が保てなかった。後々、番になるんだから許してくれ」 さっき会った時、身体が痺れてまさかと思ったが確信に変わった。先日俺を襲って噛んだ奴が久慈だと。 「俺を襲ったのはお前かっ…」 昔から横暴で気に食わない。 その上、久慈のせいで絶縁されたのにこの態度に腑が煮えくり返る。 「ふざけんなっ!一方的に決めんな!お前と一緒なんて反吐がでる!兄さんの面を汚したやつといたくない!」 久慈は驚き目を見開いた。 「どうして昔の話が出てくるんだ。それは話し合って誤解だと解決しただろ?」 「話し合いした覚えもないし、解決なんてしてない!」 その発言に久慈の顔は険しくなる。 「本当に覚えてないのか?」 「何度も言ってる!そんな記憶はない」 即答すると黙り込み何かを考えはじめた。 「…ひとつ聞いていいか?今の歳はいくつだ?」 「…19」 さらに険しく眉間にシワを寄せ長いため息を吐く。 「正直、俺も驚いているがお前は24歳だ。事故が原因だろうがまさか記憶喪失になっているとはな思わなかった」 記憶…喪失?なんで… 「よく記憶喪失だと気がつかなかったな。人や物が変わってておかしいと思わなかったのか?」 嘘だろ…。 棚の上にあったカレンダーを見ると未来の日にちだった。 「入院中も家に帰ってもじぃと新しい世話役しか会ってない。家は離れで隔離されてたし…誰とも…」 記憶がないことに困惑した。 なぜ記憶喪失になっている?医者に質問されて年齢は言ったのに…なぜ教えない?隠す必要があるか?それとも久慈が言ってることは嘘じゃないか? 分からないことばかりで頭が痛いし、目眩がする。 「ふーん…少し調べてみるが覚えてなくても守ってもらうぞ。無駄骨は御免だ。 今後はこの家で一緒に暮らしてもらうぞ。ここでゆっくり記憶を探せばいい」 記憶がない今、誰を信じていいのかわからない。契約書の字は覚えてなくても俺の字だった。追い出されて行くあてがないし、癪だがここしかないのが現実。 「ぐっ…勝手にしろ!俺は俺で勝手にする!!!」 手元にあったクッションを久慈に投げたが悠々と弾かれた。 「あっちの奥にお前の部屋はある。家の中では自由にしていい。あと、危ない奴に襲われたくなかったら外に出るなよ」 「あんた以上に近くに居て危ない奴はいねぇーよ!!」 捨て台詞を吐き、乱雑にドアを閉めて奥の部屋に向かった。

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