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「ありがとうございました」
医者をエレベーターまで送り、雨のいる部屋に戻った。
診てもらった結果、脳震盪だった。
頭痛や吐き気が治らなければ病院で検査するように言われた。
「大丈夫か?」
意識を戻した雨は不機嫌でずっと無視されていた。
「雨…無視するなよ…」
ベットの端に座り、顔を伺う。
触るなと言われたから毛布越しならいいと思い、ポンポン叩く。
「…大丈夫じゃない。気持ち悪いし、体中痛いし、足捻った」
「悪かった…気持ちが焦った…」
目元だけ出すように毛布を被り、ジト目で睨む。
「もっと反省しろ」
「すまない…」
機嫌が治るまでおれが出来ることなら全てやろうと思った。
「もう少し、真面目にごめんなさいしたら許す」
「ごっ、ごめんなさい…」
頭を下げ、手を合わせ謝る。
反応が返ってこないのでチラッと雨を見ると上半身を起き上がらせていた。
そして、雨の手が久慈の頭を撫でた。
「いいよ。あやのこと許す」
えっ…
今、名前でっ…
「記憶…戻ったのか?」
雨は笑っているはずなのに目が笑っていなくて、黒いオーラを纏っていた。
「だけど、そこの床に正座しろ!お前なぁ、記憶喪失の奴を襲って噛むなんてバカなの!?思い出したから結論的に良いけどさ、怖かったんだからな!!反省しろ!!ばか!!」
正座にさせられ、ガミガミと怒られた。このあと雨の不満鬱憤が1時間かけて発散された。
「ずっと黙ってるけど聞いてんのー?」
俯いたまま黙って聞いていた久慈の頭を突いた。顔を上げると今にも泣きそうな顔していた。
「えっ…、怒りすぎた!?」
滅多に泣かない奴が泣きそうな顔をしてることに驚いた雨は慌てた。 すると突拍子ない言葉がきた。
「なぁ、名前呼んで」
「えっ、あや?」
「もっと…」
「あ、あやちゃん?」
「別の呼び方…がいい」
「駄犬??」
「………。」
「拗ねんなよ、文人」
以前のような普通の会話で、本当に記憶が戻ったんだと実感できた。
いつもの雨を見れたら嬉しくて微笑んだ。
「何笑ってんだよ!……あや?」
腰に手を回して引き寄せてた。俺の上に対面で座るよう抱き寄せ、雨の胸に顔を押し付けた。
「ずっと待ってた…おかえり、雨」
雨は頭を包むように腕を回し頭を撫でてくれた。
「たっ…だいま。あやっ…」
やっぱり、雨の腕の中は落ち着く。
記憶が戻るには何年もかかると思ってたし、一生戻らないと思っていた。
こんなにも早く、戻れるとは思っていなかった。
雨の照れた顔が見たくて上を向くと恥ずかしくて口を尖らせていた。
「なぁ、ずっと頑張っていた犬にご褒美は?」
上目遣いで強請ってみた。
すると困った顔した雨の顔が上から降って、一瞬だけ唇に触れた。
「それだけなの?ひどいな」
「生意気な駄犬」
また唇が重なり、さっきよりも深く甘いキスをした。
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