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第2話 爆弾投下
この日、飛鳥井家は三男の爆弾投下によって大騒ぎになっていた
応接間は重たい空気に包まれていた
飛鳥源右衛門は腕を組み、目を瞑っていた
……眠ってない?じいちゃん?
そう思える位…源右衛門寡黙で…静かだった
康太は一瞬思うが聞く事は出来なかった
父、飛鳥井清隆は、何を言って良いやら解らず黙っていた
飛鳥井玲香は、恵太を見ていた…
いや…睨み付けていた
瑛太や蒼太は、下手なこと言ったら母が怖いから…
口出しすら出来ずに、恵太を見ていた
飛鳥井の事は…真贋が決める
それ以外は…母玲香が決める
康太と悠太は…自分に火の粉が飛ばないか…身構えて涙目になっていた
玲香の背中には炎がユラユラ見える…逃げ出したい
多分…その場にいた全員、同じ気持ちだと思う
いたたまれない気分の兄弟達と違って、恵太は真摯な眼差して玲香を見て
「反対されようとも、絶対に結婚します」って爆弾を投下した
恵太の横に座っている女性は…明らかに康太と変わらない位の年齢に見えた
……だけど、女性の年齢は見た目と違うからな解らないって…
多分… 家族はそう思い込もうとしていた
「し…東雲可奈子と申します」
頭を下げる女性は…本当にコンパクトに小さく細く、下手したら中学生にだって見える… かも
目がやたら大きく、人形みたいだ
テディベアを抱っこしてたら似合いそうな容貌は恵兄のストライクゾーンど真ん中だ
「失礼だけどお幾つなの?」
母親が聞く
「17歳です」
か弱い声が答える
えぇぇ~っ!!
家族が奇声を上げた
「康太と同い年ですか…」 瑛太が呟いた
「私が父親なら間違いなく、恵太、君を殺しますね!」
瑛太はメラメラ怒り狂う
あんたの娘はまだ一歳でしょうが…
康太が胸の中で、突っ込みを入れる
親父は頭を抱えて
「若いのに手を出すのは蒼太の方かと思ってたんだが、恵太とは…」
何気に酷いこと言ってるって気付いてますか… 親父殿
恵太は勝手なこと言ってる家族を尻目に
「家族に反対されても結婚するつもりです
夏奈子のお腹には子供もいます
これはケジメをつける為に紹介しただけです」
恵太が宣告すると、玲香は鼻で笑った
「お前のケジメなんざ聞いてはおらぬ!」
飛鳥井玲香はピシャリと言い放った
「可奈子さん」
母親は可奈子に向き直る
「はい。」
可奈子も母親を見た
「あんたの親御さんはどう言っておられるのですか?」
「最初は反対していました。
ですが、お腹に子供がいることを言って……
何がなんでも結婚 するつもりだって…告げました
17の私が 結婚すると言っても親の許可がないと結婚出 来ないのは知ってます
結婚出来なくてもお腹の子と恵太さんと居られれば良い…そう言ったら親は諦めてくれました」
玲香は目を瞑り、黙って聞いていた
「解った」
母親は可奈子の決意を垣間見て、応援する決意をしたみたいだった
「結婚は認めてあげましょう!
真贋も何も仰られない…私が決めても良いと言うことでしょう…」
母親の言葉に恵太は、えっ?って顔になる
「結婚は認める
だけど、お主の言い分ばかりは聞けぬ!
こっちの言い分も聞いてもらう
それで良いか?」
何も言わせぬ迫力があった…
「い…言い分って?」
恵太は母の迫力に押され気味で…問い質した
「恵太、自分の責任を取るのはそれは当たり前の事であろうて
だがお主は親の気持ちを忘れておる
向こうの親御さんの気持ちは…解っておるのか?
既にお主は、向こうの親御さんに顔向け出来ない事をしておるのを忘れてはいけない
ちゃんと結婚式をして、向こうの親御さんが安心する新居を用意 しなければならぬ
お前の事だ、総て決めてから座っておるのは解る
覚悟も準備も整ってしか言わぬものな…お主は 」
「はい。覚悟も準備も出来てます。」
「だが恵太、お主は可奈子さんが未成年だと言う事を頭に入れねばならぬ!
相手は康太と同い年、子育ても未知の世界であろうて!
そんな未熟な子を行きなり外に出して、負担は考えた事はあるのか?」
覚悟は出来ていても…
未知なる子育てや、生活を…
心配しなかった訳だはない
恵太は押し黙った
「恵太、お主たちはこの家で生活を始めると良い」
「母さん…三階は瑛兄の部屋に改築したばかりで、部屋はありませんよ?」
「蒼太は近々、この家を出てマンションに移る
前から決まっている事だ
二階は蒼太と康太 と、悠太の部屋がある
悠太は一階の空き部屋に移し、康太は寮へ入れる」
「えぇぇぇぇー」 康太の声が虚しく響いた
だが…誰も異を唱える者はいなかった…
それからは母親のワンマンショーだった
「明日、可奈子さんの親御さんに挨拶に行って 、この家に住んで貰う事を告げなきゃね」
飛鳥井家は近所でも目立つ3階建のビルが我が家だった
1階の部屋には、家族全員入っても余る、広い応接間に客間
源右衛門の部屋に、飛鳥井父の部屋、母親のドデカい部屋がある
2階には蒼太、康太、悠太、恵太の部屋があり
3階は瑛太夫婦の住居と化していた
2階には、使われない部屋もあるが…
物置と倉庫と化していた
とてもじゃないが…リフォームを入れないと住めない
近いうちに蒼太は恋人と暮らしたいからと、マンションに移る手筈になっていたけど…そこに来られたら…
新婚の横に住めと言うのか?
考えに耽っていると母親からの檄が飛ぶ
「康太!!」
視線を感じた瞬間に固まる
やはり…この人の視線は…怖い
蛙が蛇に睨まれたみたいに…動けなくなる
「はいっ」
康太の声が裏返る
「お主の学校、修学館桜林学園って寮もあったよな?」
えっ? えっ? えーっ!!
「お主は寮に入れ
何時も瑛太と話しておった
家におれば…お主は何かと多忙であろう…
雑務も多い…学園生活を満喫出来ぬ環境に置いてしまった…
この機会に…私はお主を外に出そうと想う」
玲香は優しい母の目をして…康太を見つめた
「お主は家からは慣れて学園生活を満喫すれば良い…
今しか味わえぬ経験を…させてやりたいと…思っておった
誰にも何も言わせはせぬ!」
玲香は源右衛門を真摯に見詰め…問い掛けた
源右衛門は瞳を閉じたまま…何も言わなかった
「お主には体験が必要だ、寮に入れ。良いな
幸い蒼太もマンションに移るし、二階は恵太夫婦の部屋にする
康太の部屋は一階の空き部屋をリフォームする
帰る部屋はある……だからお前は心置きなく寮に入りなさい」
総てが…決められた事項の様に…
話が纏まる
康太は…決められし事に…何も言えなかった…
恵太の爆弾投下の所為でぇぇぇぇ~
康太の心の叫びが…
空しく響いた
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