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第3話 寮へ

5月の第一土曜日、恵太は結婚式を挙げた 幸せそうな恵太と可奈子 可奈子の両親は終始泣き通しで、若くして嫁ぐ娘に涙した 恵太は…康太に深々と頭を下げ… 覚悟の瞳を…告げた 康太は何も言わず…恵太と可奈子を見ていた 式も終わり、披露宴も終わると… そこからが飛鳥井家の本領発揮だった 飛鳥井の家は…何かと宴会を立ち上げて飲んでいた めでたい事があれば宴会 そうでなくても、友が来れば宴会 宴会好きな人間が集まっていた 披露宴の後も自宅に席を移し 飲めや騒げの宴会に雪崩れ込み 宴会は、朝方まで続いた… 康太はそんな騒ぎとは裏腹に、寮へ行くは身支度を整えた 部屋の荷物は既に運び出され、既に寮の部屋に 運び込まれているそうだ 明日、康太が寮へ行けば直ぐにでも生活は始められるよう、母親の玲香が手筈を整えていた 恵太夫婦は新婚旅行から帰って来たら新生活が始まる 康太は既に客間で寝起きしていた 部屋がなくなって…お客気分のまま寮へ行く 今度帰って来ても…今まで過ごした部屋はない んだ って思うとやりきれない思いが駆け巡った 仕方ない…決まった事だ 康太は布団に潜り込み…眠ろうとした この家で…過ごす時間は少なく 家族との時間も…持てず過ごした 高校を卒業するまでは… 家族と普通に生活出来ると思っていたのに… 誰が悪い訳ではない 眠ろう… そうしても頭が冴えて… 眠れなかった 康太の通う学校はエスカレート式の学校で 幼稚舎から始まり、初等部、中等部、高等部 、大学までエスカレート式に落第しなければ上がって行ける私立の学園だった 康太は幼稚舎から桜林で…と、言うより飛鳥井家の人間は皆、桜林に入る家風になっていた 家族全員が…嫌…飛鳥井の一族全員 男子たるものは桜林に入学せねばならない!と謂う家訓が今も根付いていた 寮には、スポーツ特待生や他県から来ている生徒もいるが、色んな事情を抱えて入寮している生徒もいた 康太は、幼稚舎から桜林の(問題児で)有名だから …知らない奴はいないが…憂鬱だった 康太の入寮の日 日曜日って事もあって、玲香が寮まで送る事になっていた 瑛太が送ると言うのを…鶴の一声で黙らせて玲香は康太を送ると宣言した 「康太、お小遣いや必要なお金は、このカードから出しなさい」 玲香は康太にカードを渡した 好き放題かぁ♪なんて甘い考えでいると 「調子に乗って使いすぎるではないぞ 明細は総て届くのだからな! 」 お見通しですかと言う位、タイミング良く釘を刺す 玲香は車を止めると、康太の頭をクシャクシャと撫でた 知らないうちに寮に着いていた 「お主の部屋の荷物は届いている筈だ」 「はい。」 「お主の担任には言っておいた お主は何も心配せず普通に過ごすと良い」 母親の顔が悲しげに歪む 康太は母親の気持ちは解っていた 母親の気持ちは痛い位に解っている… 「今しか味わえぬ経験を…な。」 「おう!解ってるもんよー」 康太は明るく笑い 「じゃあオレ行くかんな!」 と、車から降りて寮へ向かった 玲香の車が康太の姿が見えなくなっても、ずっ と止まっていたのは知るよしもなかった 寮の玄関をくぐると、総監の部屋があり、寮の全ての管理がそこでなされていた 康太は総監の部屋の前にある小窓を開けて声をかけた 「あの…今日から世話になる飛鳥井ですが…」 すると部屋の奥から、メラメラ燃えた暑苦しい総監が出て来た 「おおっ飛鳥井!待ってたぞ」 待ってた?何故? 「お前の部屋は107号室だ。 同室者は榊原伊織 お前は何かと問題児だからな 執行部部長の 榊原がお前の監視役だ 彼がお前の荷物を運んでくれた ちゃんと礼を言っとけよ さてと、やっとお前さんが来たから部活に行ける お前がは来ないから、オレは部活にも行けなかったんだぜ! 部屋は解るか?」 体育会系の総監は、何時も夕日に向かって走っているかのように…無駄に暑苦しかった 「あっ…はい。」 康太は暑苦しさに圧倒され返事が遅れてしまった 「部屋は解るか…お前は何度も寮に来てたから勝手知ったるってやつか」 ガハハハハッと総監は笑った 「じゃあな、オレは部活に顔出すわ」 総監は康太の肩をバシバシ叩いてから、部活へと出ていった 「107…榊原伊織か、同室…」 部屋は大体何処にあるか、知っていた だが、 問題児の康太は執行部役員の部屋には 恐れ多くて、近寄る事も出来なかった なんたって康太は桜林の四悪童と、呼ばれる問題児だったから… 重い足取りで部屋へと歩くと、前から知った顔が、笑顔で近寄って来る まぁ、康太は幼稚園からこの学校の生徒だから 、知らない奴はいないんだけど… 「あれ?康太ぁ今日からだっけ?」 幼稚舎から一緒の腐れ縁 しかも四悪童の一人 、緑川が、声をかけてきた 緑川一生…一生と書いて「かずき」と読む、が近寄ってくる 寮に入る話はかなり前にしたから、寮に来るのは知っているけど、何時来るのかは聞いてなかったんだな 「今日からだって金曜に言ったぜ」 「そうだっけ? ところて何号室なんだ?」 「107…」 「107…107って言やぁ榊原か!! 」 「みたいだな…」 「康太…榊原…天敵…」 片言の日本語使わんでも解っとるわい 榊原は康太の事、良く思っていないのは知っている あっちは執行部、こっちは四悪童と呼ばれる問題児なんだから しかも…榊原が気にしている名前を中等部の頃 、笑ってしまった過去があるから… 康太は榊原の事好きだったから、時代劇好きな母親を恨んだ過去があったりする 「じゃあ、一生行ってくるわ」 片手を上げると、一生は拝んでいた!! お前…喧嘩売ってるのかよ? 107号室の前に立ち深呼吸をする スー……ハー …… 乗り気ではないがドアをノックする ……しーん あれ?居ないんかなぁ? ドアを開けようとしたら、内側から引かれた このドアは内開きなのねぇ…あれぇ勢いがついて体がよろけるぅ ポスッ柔らかい何かが支えてくれた えっ? 見上げると、康太より身長の高い奴がいた かなりイケメンで、普通に生きてる康太と違って 人気者の執行部役員、榊原伊織が康太の体を支えてくれていた 知っている人は知っていると思うが、時代劇の大岡越前に榊原伊織って診療所の医者の役名があって 時代劇好きな母親に育てられた康太は かなりの時代劇好きだった 榊原とは中学の時に始めて同じクラスになった 榊原の名前で…なんと笑ってしまった過去があり…以来…仲違いした関係になっていた 面白くて笑ったんじゃなく、嬉しくなってつい笑ってしまったんだが…以来、口も聞いていない 榊原はどんどん格好良くなり、康太は何時しか声もかけられなくなった 「ありがと…榊原」 康太が礼を言うと榊原はドアを閉めた 「同室者が僕で君は、残念で嫌だろうけど、君は何かと目立つ問題児ですからね 僕が監視役兼同室者になりました 嫌でも我慢して貰います 」 榊原は一方的に捲し立て用件を事務的に述べた 康太は、そんな榊原を見ていた 何年間ぶりに近くで見る榊原伊織は良い男だった 康太がずっと遠くから見ていた男が、目の前にいた 「執行部の部長さんが、監視役だなんて、至極光栄だよ オレは嫌だなんて思ってないよ… でも榊原はオレが同室者で嫌なんだろうなぁ…」 「君を監視するのが、我が執行部部長の役目ですから」 「そうか…」 康太は榊原から、顔を背けた 「飛鳥井…この寮はホモも多い 自分の身は自分で守らないと、犯されます!くれぐれも気を付けて下さい」 「大丈夫だ! オレを襲うような物好きはいない モテた記憶なんざ、ねぇし…気を付けなくても大丈夫さ」 「君…自分を知らないですか? 天然ですか?……まぁ良いです」 榊原は康太に向き直ると、面倒臭そうにそう言った 「僕は君が同室者でも別に構いません ただ…ルールは守って頂きます 後、お互いの干渉はなしで!…って事で 君は左側のベットと本棚とロッカーを使用して下さい 簡単なシャワーやトイレは部屋の奥のドアを開けたらあります ちゃんとした風呂を希望なら浴場もあるからそっちへ… もっとも君は浴場には行かない方が良いかもね…」 奥歯に挟まった言い方をしてクスッと笑う カチンと来た康太は少しふて腐れ榊原を見た 「何でだよ?」 奴はニャッと笑い 「君が思うより、人気があるって事ですよ一人になったら、気を付けなさい」 榊原は、遠かった あの頃一緒に笑って過ごした、榊原ではなくなっていた まさか…寮でホモ対策をせねばならない事態に陥るとは…。 そもそも…ホモって、パッと見、わかんねぇーし 気を付けるにしても…どうやれば良いんだ? 幼稚舎からこの学校に通ってたんだけど… 兄達もこの学校のOBなんだけど…聞いた事ない! 「飛鳥井…飛鳥井!」 榊原が康太の肩を揺する 考え事をしていた康太は、全く動かなくなったから、榊原は慌てた 「飛鳥井…お前…寮に来てたよな? しかも、幼稚舎から桜林だよな? 何で…気付かないんだ? お前は人気もあるし、本当に気を付けないと危ない目にあうのは事実だ」 康太は信じられない顔で榊原を見る 「遊びに来てたさ!! でもホモがいるなんて知らなかった… こんな地味なオレでも気を付けないと危ないのか…」 康太は中々ショックから立ち直れなかった 性欲の対象に入っているなんて… しかも、パッと見、誰がホモなんだか、解らないし 考えすぎると…涙が出て来た こんなんで二年間やって行けるんだろうか… 康太は涙で濡れた目で榊原を見る 榊原は「ぐっ!!」と堪えるような表情をして眉間を押さえた 「ここまで天然だとは…」 榊原の呟きに、康太はカチンと来た 「さっきから天然天然言ってるけど、オレの何が天然なんだよ!! しかも、どうやってホモって見分けるんだよ! 顔に書いてある訳でもないし…あー自信なくなって来た…」 訳解んなくなった康太は、うるうると榊原に助けを求める 榊原は困った顔をしていた 「飛鳥井…」 「なぁ、榊原…オレ来ない方が良かった? オレいると、迷惑? オレ…人に迷惑かけてまで、いらんねぇ 辞める」 考えすぎると康太は軽いパニックになる 「飛鳥井…落ち着け。誰も迷惑なんて言ってない 寮に入ったばかりの人間に言うべきではなかった 僕がいけなかったみたいですね」 榊原は軽く頭を下げた 彼のいさぎの良い所は、昔と変わってない 彼のそんな所が好きだった… 康太は冷静になると榊原に謝った 「あっ……ごめん…」 謝る康太に榊原は椅子を差し出す 康太はそれに座った 「少しは落ち着いたか?」 康太は頷いた 榊原は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと康太に放り手渡した 「飲め…」 言われ蓋を開ける 一口飲んだら喉の渇きに気付き、かなり飲んでから、榊原を見上げ礼を言った 「ありがとう」 落ち着いた康太は何だか恥ずかしくなって来た 「すまない榊原……取り乱した 榊原はさ、オレの事嫌いなんだよな? 中学の時以来…お前はオレを避けていた」 「避けてないでしょ? 高校になって、クラス編成で君と同じクラスにならなかった…だけです」 「…オレは問題児だかんな」 「さっきも言ったが、僕は君を嫌ってなんかいないですよ 2年間同室よろしくお願いしますね飛鳥井君」 「あぁ…よろしくな」

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