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第5話 兄貴

寮に入ってから、毎日が忙しくて、気が付くと2ヶ月が過ぎていた 季節は春から夏に変わっていた 後二週間位で夏休みに突入する 康太は夏休みも帰省しないつもりだった 四悪童の一人が寮に残って気儘に過ごすらしいから、康太も一条隼人と共に過ごすつもりだった 同室の榊原は、クーラーを嫌って、中々クーラーを着けてくれない もう夏なのに… 暑くて堪らない… 康太は当て付けのように騒いでいた 「あちぃーあちぃーよぉ」 ベットに寝そべり、暑いを連発する 汗一つ浮かべない榊原が、五月蝿そうな顔をして、康太を見た 「飛鳥井…あちぃーあちぃー言っても涼しくはなりませんよ!」 「解ってるさ…解ってるけど…… あちぃーんだもんよぉ! ついつい出ちまうんだもんよぉ… どうしょうもないじゃねぇか」 「なぁ飛鳥井…」 「何だよ」 「涼しくなりたいんだよね?君…」 うんうん♪と、首をふる 「じゃぁさ、食堂に行って…」 うんうん♪ 「おばちゃんに頼んで」 うんうん♪ 「食堂の冷蔵庫に入れてもらえば良いんてすよ!」 へっ?? 冷蔵庫ぉ? 榊原は維持悪く笑う ムカッ…いいもん 本当に冷蔵庫に入ってやる 「そうか!!冷蔵庫があった!!」 康太はドアに向かって飛び出す 「わぁーわぁー嘘嘘!!」 ドアを開け走り出す 止める榊原より一瞬早くドアから出る 後は食堂まで全速力 途中、一生と四宮が声かけて来る 「何処行くんだ?」 律儀に一緒に走りながら聞いてくる 「食堂の冷蔵庫」 「冷蔵庫????」 二人は不思議そうな顔をする 「こうも暑いと溶けちまうから、冷蔵庫に入れって榊原が」 「あっそれ良いな!俺も便乗しよっと」 「僕も」 二人は勝手に便乗して走り出す 「飛鳥井ぃ!増殖させんじゃありません!」 後ろを追ってくる榊原が怒る 「冷蔵庫♪冷蔵庫♪冷蔵庫♪」 三人は足並み揃えて走り出す 榊原は責任感じて追いかけて行くしかなかった… 「「「おばちゃーん」」」 三人が声を揃えて飛び込んでくる 「うわぁ!!」 おばちゃんがビックリして生板のキューリを落した 「ビックリしたわ!もぉ!めっ」 「ゴメンおばちゃん…」 三人はしゅん…となった まるで叱られた犬みたいな姿に、おばちゃんはキューリを拾い、洗って切り出した 「今日のキューリは要注意だな」 一生が呟く 三人はキューリは気を付けよう!と心に決めた 「何か用なのかい?」 おばちゃんはキューリから目を離さず聞く 「あっそうそう、おばちゃん、冷蔵庫に入らせて♪」 「はぁっ?????」 「だから冷蔵庫♪食堂の冷蔵庫ってデカイんだよね」 笑顔で言うと、おばちゃんは呆れて、好きにしな…って言ってくれた ワイワイ冷蔵庫に詰めかける 「あ~涼しい♪」 「生き返るぅ♪」 「僕の美しさを瞬間冷凍♪」 好き勝手言ってる三人を横目に榊原はお手上げだった 「あんたも遠慮せず入りなよ」 おばちゃんが榊原を冷蔵庫に押し込む 「榊原ぁ涼しいな♪」 一生は静かに拝んだ 四宮は笑いっぱなしで 榊原は、涼しくてもあんまし変わらなかった 一頻り涼んでから、冷蔵庫から出してもらった 榊原はもう二度と冗談は言わねぇって心 に決めたのであった 四人が部屋に戻ろうとすると、康太だけ総監に呼び止められた 「おぉっ良い所に飛鳥井じゃないか!」 何が良い所なんか解らないんですが… 「お前に面会だ!寮の門の所におみえになってる。行って来い♪」 「誰ですか?」 「行けば解る♪さっさ行け行け!」 背中を押されて、ドアから出される どう言う訳か、一生と四宮、榊原まで着いて来る 渋々寮の門の所まで歩いていくと見慣れた車が止まっていた 黒のベンツ その車に乗ってる身内を、康太は頭に浮かべる 「あっ!」 車を見ると嬉しくなって走り出した 「何でいんだよぉ~」 車に駆け寄る、康太の姿を見て、その人は車から降りて来た 車から降りた人間目掛けて康太は…飛び付く …………手前で榊原が康太の首根っこを掴んで引き留めた 康太はまるで首根っこ持たれた子猿みたいになっていた 「榊原ぁ離せぇ」 榊原のキツイ眼光が瑛太を捕らえる 榊原は剥き出しにされた独占欲をセーブ出来ず、瑛太を睨み付けていた ……榊原、喧嘩売ってるってってば、その顔 榊原が、睨んでも、瑛太は気にせず笑っていた 「失礼!私は康太の一番上の兄、飛鳥井瑛太と申します 弟をそろそろ離してもらえませんか?」 まるでオイタをした子猿の様に捕まってる康太に助け船を出してくれる 榊原はガタイの良い兄と康太とを見比べた後に康太を解放した 「瑛兄!どうしていんだよぉ」 康太は瑛兄に飛び付いた 電柱に飛び付いた猿宜しく、 瑛兄に抱きつき昇った 「はははははっ相変わらずだなぁ康太は」 「瑛兄、皆変わりないのか?」 「ああ…今日来たのはな、夏休みは帰って来るのか確認しに来た お前、携帯に電話してもかけてこないから…様子も見に来た」 瑛兄がオレの頭をくしゃくしゃと撫でる 「オレ…夏休みは帰らないつもり」 「康太…」 瑛兄は悲しげな顔をした 「康太…1日も、戻らないつもりなのか?」 「物置に寝たくねぇもんよぉ」 「康太…じいちゃんが淋しがっている じいちゃんは、空き部屋のリフォームを一人でやってたんだ 康太が帰って来て、部屋がなかったら可哀想だって、じいちゃん休む暇も惜しいってリフォームしていた じいちゃんの気持ちも解ってやれ じいちゃんの為にも夏休みは帰って来い」 「でも…」 意地を張って、イジケてる康太の頭を、榊原はペシッと叩たいた ベシッと叩かれた頭を押さえ、康太は榊原に振り向いた 「痛いなぁ本当にバカになったらどうしてくれるんだよ!」 「本当にバカになったら責任取って嫁にもらってあげますよ…約束したでしょ?」 爆弾発言投下したのに、榊原はしれっと言いやがった 「素直になりなさい! 何、意地はってんですか!」 「だって…」 「だってじゃない!」 「…オレ…間違ってる?」 「後悔するでしょ?そして泣くんでしょ?」 「……」 「ほら…」 素直になれ…って肩を叩いて、榊原達は寮に帰って行った 瑛兄は寮に戻って行く一生と四宮の他に榊原を見送って呟いた 「一生君と四宮君は何度か顔を見たけど、今の子は見かけないね?」 「彼は榊原伊織って言って、オレの同室者だよ」 「榊原…あぁ!康太が名前で笑った子だ 榊原伊織君かぁ…同室者か…仲良くやってるか?」 「瑛兄…覚 えてたんだ…」 「はははっ当時のお前の落ち込みようったら凄かったからな 食事も取らなくて病院に運ばれたからな…病名が栄養失調だったから、忘れられんだろ?」 失礼な! あっ!そう言えば瑛兄もこの学園の卒業生だったんだな 康太は、ふと思い出す 康太の悪巧みをして、キラキラ瞳を輝かせた顔に瑛兄は少し引く 「なぁ瑛兄、瑛兄ってこの学園の卒業生なんだよな?」 康太が何を聞きたいか瑛太は大体想像がついた 「オレさぁ、寮に入って知った事があんだよ この学園ってホモが異常に多いんだってさ瑛兄、知ってたのか?」 「…さぁ………それより榊原君はカッコ良い子ですね」 瑛太は話をはぐらかす Г榊原は執行部役員してるから、人気あるもんよぉ…でも、意地悪いし恐い…」 「はははっそれより、たまには両親に電話位しなさい 母さん心配してるし 恵太なんか、自分が追い出した… 感じで気にしてるぞ じいちゃんなんか元気な康太がいないから淋しがってる 家族皆がお前を心配してる」 瑛太は康太の頭を撫でた 幾つになっても、この弟は可愛い 康太の榊原を見送る瞳と、瑛太を睨んだ榊原の瞳が物語るものを、桜林卒業の瑛太には痛い程、解っていた 「瑛兄ぃ…ごめん」 「夏休みは少しでも顔を出すな?」 「うん。電話もするよ」 「良い子だ」 願わくば…この弟の行く先が、幸多くいられます様に…瑛太は願わずにはいられなかった 瑛兄は家の事色々話してから帰って行った 帰り際瑛太は 「康太…嫁ぎ先が決まって良かったな」 なんて、康太に言うと 「何冗談言ってんだよ!」と怒った 結局、瑛太は笑って誤魔化し帰って行った …嫁ぎ先が決まって兄貴が喜んでたって榊原に言ったら、アイツどんな顔すんだろ うへへへへ♪

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