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第8話 トラップ

「100メートルクロール予選タイム測ります 位置について…ヨーイ」 パーン ピストルの合図でプールに飛び込む 康太は泳ぎは得意だった。毎年予選突破で決勝を争う実力だ だがこの日の康太は体調が悪かった プールに入るなり、足が吊り溺れそうになった 泳ぐ体が重く、足掻けば足掻くほど、体は沈んでしまう 手足には錘がついたように…重くて…体は沈んで行くしかなかった 「うわぁぁぁ……た…す…け…」 康太の体が沈んで行く 遠退く意識の彼方に、康太は榊原に似た人魚が助けに泳いで来る幻覚を見る 最後に見るのが榊原で良かったかも… 康太の意識はここでフリーズした 榊原は康太が溺れている姿を見るなり、我慢出来ずにプールに飛び込んだ プールの底に沈む康太の体を引き寄せ、抱き締める 体がやけに冷たく榊原は慌てる 康太…康太、その手に康太を抱く 水面から榊原が顔を出すと一生と四宮が駆け寄った その手には康太がしっかりと抱えられていたて、二人は胸を撫で下ろした プールから上がる榊原に手を貸そうとするが、榊原は誰の手も借りずプールから上がった 恐るべき執着 プールから上がった榊原と康太に、四宮はバスタオルをかける 榊原が医務室に向かって歩く 榊原の左右に当然の様に並んで、一生と四宮が歩く 「ところで榊原、話が有るんですが、聞かないと多分一生後悔すると思いますよ」 四宮がひっそりと囁く 「康太の事だ…聞かないと…絶対に後悔するぜ!当然聞くよな」 一生が念を押す 「一生…榊原は康太の事なら聞かない筈ないじゃないですか 大切な康太なんですから、聞きたくてうずうずしてますって」 「それもそうだな♪聡ちゃん冴えてるじゃん♪」 「僕達って、何て親切な奴なんだろう」 四宮が言うと、うんうん!二人は頷いた 二人は榊原の言葉をはなから聞く気はない 二人は顔を見合せ笑った 榊原は、桜林の四悪童の真髄を垣間見た感じで、関わり合いたくない…なんて思った さてと、此処からの実況中継は 「緑川一生」 「四宮聡一郎」が、お送り致します 一生と四宮と榊原は保健室の横の部屋にいた 部屋の中にはTVモニター バッチし保健室のベットが見えている モニターの前に座って榊原が呟く 「良くこんな装備を用意出来たな…」 「保健室のハニーは僕にぞっこんだからさ保健室は貸し切りさ」 四宮が微笑む 保健室のハニー…… 榊原はクラっとする 「このTVモニターは、執行部の田野倉の趣味さ… アイツ盗撮が趣味なんだ… まぁベットで泣かせれば、大抵の物は揃うさ」 「そうそう、ベットで泣いたり、泣かせたりすれば、大抵の事は使えます」 ふふふっ 四宮と一生は顔を見合せ笑う 榊原は話題を変えた 「本当に、飛鳥井のストーカーは現れるのか?」 半信半疑な榊原は戸惑いを隠せない 「来ますよ!絶対に来ます。ねぇ一生」 四宮は力強く断言する 一生も、あぁって頷き 「康太のパンツ盗みまくってる変態だからな… ここいらへんででシメとかないと、厄介な事になる…それは避けたい」と呟いた 「…厄介って…」 榊原は、ごくりと唾を飲み込んだ 「部屋に監禁してレイプ」 一生の言葉に榊原はギョッとなる 「パンツで我慢 しているうちは、まだ良いが、今はストーカーだぜ! 卑劣な行為は絶対にエスカレートする だから見過ごせないんだ!!早目にケリ着けようぜ そうしないと康太の精神が持たねぇよ」 「なぁ榊原、君さぁ康太愛してるんでしょう?」 四宮が優しく聞く 「あぁ…好きだ…」 「だったら、泣かせんなよ」 一生が念を押す 頷き四宮は榊原に訴える 「康太は僕等にとって太陽なんですよ 康太の前では、気負わず凄く当たり前に過ごせる 康太とは死ぬまで友達でいたい…それだけ大切な存在なんです もし君が康太を裏切り泣かせたら一生僕達の敵になります」 真摯な瞳で言われたら、なにも言い返せない 榊原は頷いた そんな榊原を見て一生は 「まぁベットの中で鳴かすんはOKだけどな」 ニャリと笑った 「元気な飛鳥井康太に似た生徒は、鬼の執行部、榊原伊織のお手付きだ…」 一生はトドメを刺した 「ぐっ…」 榊原は身に覚えが有るだけに、いたたまれない気持ちになった 康太が手に入らないなら… 似た面影を求めた 本人を前にしたら、やはり紛い物は本物にはなれない事を痛感させられた 「身辺綺麗にしろよ! 康太が欲しいなら、康太だけの物になれ」 「解ってる」 一生と四宮はもう何も言わなかった 「あっ!来たよ…やっぱりアイツだ」 四宮の声にモニターを見る 写し出された姿は、康太が抱き上げられて保健室に来るまで後ろを着いてきていた奴だった 榊原はその男には見覚えがあった 確か一年先輩で、写真で何かの賞をもらっていた奴だ 「あれって、3年の三上淳一…彼がストーカーなのか?」 榊原が聞く 「そう。彼が康太のパンツを盗みまくってる変態さんだ」 一生と四宮のリサーチ済みの様だ モニターを見ると、三上は康太のベットのカーテンを開き 近寄った 康太の頬に触る カァーっと怒りを覚え飛び出そうとする榊原を、一生か引き留める 「今出て行ったら、 奴にトドメが刺せれない… そうしたら、アイツはまだまだ康太にストーカーするぜ…それでも良いのか?」 グッと榊原は拳を握る 相変わらずテレビモニターは気持ち悪い位、康太を撫で続ける三上が、写る 「康太…僕の康太…」 魘されたように呟き 康太に口付ける 舐める様に、康太に口付ける そして服の中に手を入れた 「君は僕のものなのに…」 手が康太の肌を満遍なく触る 康太はあまりの不快感に目を醒ました 康太は状況を飲み込めずにいた 何でこんな知らない奴がいんだよ しかも目の前には奴の唇 康太は気力を振り絞り言った 「お前…誰だよ…」 自分を触り続ける、三上の手を叩き落とす 「オレに触るな!」 汚い手でオレに触るな! 半狂乱になって抵抗すると、三上は信じれないって顔をして 康太を力づくで押さえつけた 唇が肌を這う うぅっ気持ち悪い 「助けて…助けて!!榊原ぁ…」 康太の、叫び声に一生はGOサインを出した 「行け榊原!行って来い! でも…殺さん程度にしとけよ」 釘を指すのを忘れない…緑川一生だった 榊原は我慢出来ずに、部屋を飛び出し保健室に飛び入った バァーンと音を立てて開けられた扉に、三上は慌てた 「三上先輩、こんな場所で何をなさってるんですか?」 榊原が三上に詰め寄る 鬼の執行部役員の姿に言い逃れ出来ないと思ったのか、三上は康太に罪を擦り付けようとした 「コイツが誘惑したんだよ… 僕は嫌だって言ったのに…」 その一言に四宮はキレた 青白い焔が四宮を包む 冷静な奴が静かに怒る姿がここまで恐ろしさを呼び起こすのかと、榊原は身をもって味わった 「陳腐な言い訳ですね 皆が信じると思うんですか? だとしたら貴方は間抜け過ぎますね 貴方が康太にストーカーしているのは明白なんですが… 此処まで往生際が悪いとは…馬鹿なんですかね? 康太にストーカーしてるのバレてないって思った? 証拠写真だって有るんですけど」 四宮は胸ポケットから写真を出すとベットの上にバラ蒔いた そこには、乾燥機から康太のパンツを盗む三上の姿があった また別の写真には康太の後を付け回す姿が… 用意万端 一生と四宮の底力を見せ付けた一瞬だった 「そしてとうとう強姦未遂…学園長には、連絡しといたぜ」 えっ…学園長ぉ! 何で学園長の携帯番号知ってんのぉ!? 一生を見ると手には携帯電話が握られ、今も誰かと話している 榊原は相手は誰なんだと聞く勇気もなか った 「学園長、後の処分は頼んだぜ」 楽しげに携帯を切る 唇の端を吊り上げ笑う一生は…悪魔の尻尾が絶対に生えてる!…と康太は思った 三上は崩れ落ち泣きじゃくった 少し経って、校長が職員と共に学園長の名を受けて三上を連れに来た 「一件落着だな これでパンツ盗まれる心配はなくなったな康太」 一生がニカッと笑った

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