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第12話 四悪童

もともと修学館桜林学園には悪童と呼ばれる手の付けられない、問題の生徒が存在していた 策士の四宮聡一郎 戦略の緑川一生 この二人は悪知恵が働き、数々の悪さをして来た 人の嫌がる事ばかり…やる でも人の弱味を握るのも上手く 何処で情報を集めるのか…かなり踏み込んだ弱味を握っていて、教師ですら、うかうか手が出せない程だった あの悪童に目を付けられたら最後だ…気を付けろ ………とまで謂われていた 人々は彼らを敬遠した 二人は自分達を異質な目で見る人間を嘲笑うかのように、ターゲットを探した 二人のIQは高く桜林のトップクラスの知能を誇っていたが…やってる事が酷すぎる 何時の間にか彼らは異端児のレッテルを貼られた そんな事にはお構いなしで、そんな奴等を抹殺すべく悪事を働いた そんな悪童が唯一苦手な人間はいる 裏も表もない、弱味もスキャンダルなんて縁のない人間 脅せない、寄り付かせる事を止めさせれるだけの情報も何もない 綺麗で太陽のような存在、それが飛鳥井康太だった 彼はどんな時でも態度を変えない 幼稚舎から、二人がお気に入りで、二人の後を着いて回る 経面う事もなく、媚びる事もなく、何時も自然体で接して来る クラスの奴等は寄ってさえ来ないのに… クラスの奴等の瞳には二人を見る時は、何時も嫌悪の影があった なのに何故コイツの瞳は翳らない? 何時も笑いかけてくる瞳は光輝き翳りは微塵もない 明るく太陽の様な飛鳥井康太は、クラスのみならず、老若男女問わず人気者だった 背中に太陽を背負ったアイツが、何故自分達に変わらず接してくれるのか? 解らなかった 幼稚舎からの腐れ縁だけど、殆どの奴が手のひらを返した 友達だと思っていたのに… アイツ等には関わるな…と 敬遠されて、今じゃ誰も声なんかかけて来ないのに… なのにコイツは何故変わらない? 裏があるのか??? 企みがあるのか??? 一生と四宮は何度も話し合う でも…答えなんて見つからない 康太は裏表のない人間だって知っているから… 「一生ぃ♪聡一郎ぉ♪」 幼稚舎から変わらぬ呼び方 康太は太陽だ 崖っぷちに立っている二人を照らす太陽だった それが嬉しくもあり… 壊したい衝動に駈られる時もある 壊したい… アイツの羽を毟り取り 自分達の場所まで落とすしかない…と、考えてた だけど、自分と同じようには、穢れて欲しくはない 康太は二人の望みでもあったから… だったら… 決定的なダメージを与えて もう二度と近寄れなくすれば良い 自分達に光なんて必要ないんだから… 自分達の羽根なんて…とっくに毟られなくなっている 一緒にいてはいけないのだ 自分達と一緒にいたら…康太が汚れる 彼は一筋の光りなのだ 遠くで輝いていれば良い… 康太を嵌めるのは、赤子の手を捻るより容易い もう近付かなくする程度のダメージで、良い 康太にトドメを刺す必要はない 与えるダメージは、少ない方が良い… 二人は康太の周辺をリサーチする すると一件の名案がヒットした これなら、彼を傷つけることなく離れさせられる… 街並みがクリスマスネオンに彩られる12月24日 一生と四宮は康太を呼び出した 久しぶりのお誘いに康太は喜んで出て行った だが、その誘いは康太を地獄に突き落とす誘いだとは、康太は夢にも思わなかった 喜びのあまり、飛び勇んで来た康太に 一生と四宮が顔色一つ変えずに話しかける 「あのさ、康太、俺、この書店で欲しい本があんだよ でも金ねぇから、お前万引きして来いよ」 と、一生が告げる 「高額な洋書で学生の身分では手が出せないんですよ」 四宮が補足する 「いっ…幾らなんだ?」 康太は二人の望みなら預金を下ろしてでも叶えたかった 「5万円」 5万円なんて、中学生には大金過ぎて持ってなんかいなかった その書店は、県内で一番大きく何でも揃うと有名な書店でだった 輸入の高価な書籍もあり、店内で一番高価な本を調べて、言った 康太は躊躇する その書店は…康太の親戚、飛鳥井の親族の経営する書店だったから… そんな事は重々承知で出した条件だった 此処まですれば…もう声はかけて来ないだろう… もう何時もの顔して来ないだろう… 苦肉の策だった このまま、康太は帰るか…もし行動に起こして、捕まったとしても、一生と四宮の名前を出して無罪放免になれば良い 後日警察に呼び出されたって、自分達には無くすものなんて何もない それよりもアイツの真っ直ぐな瞳が怖い… あの瞳で見られたら、心まで見透かされているようで…居たたまれない どうしても欲しから、盗んで来てくれ!と康太に訴える 盗んで来たら友達になってやる。と一生は言った なる気なんて更々ないが、単純な康太なら飛び着くだろう…軽く見ていた だが康太は首をふった 「書店で本を盗みに行く! そんなに欲しいならオレは取ってくる でも、一生、聡一郎…オレは友達になりたいから盗みに行くんじゃない…… お前等二人と居たかったから取りに行くんだ…」 バカだと思っていた康太に手の内を見破られていた 康太は悲しげに笑って 「オレに金があったら、買うんだけど、ゲームに使っちまったから、取ってくるわ」 と、走って店内に行った 一生と、四宮は、康太の気持ちが痛い程伝わっていた こう言う形でしか友人を守れない…康太の虚しさ 守りたかったのだ…康太は 二人を守りたかった でも伝わらない気持ちに、二人が試そうとした策略に乗った これが、二人を取り戻す最後のチャンスだったから… 康太は敢えて、二人の策略に乗って行った その後を一生と四宮が、こっそり着ける 何かあったら…飛び出す覚悟で… 康太は言われたコーナーに立つと、言われた洋書を探す 康太の場違いな姿に、その場にいた皆が見る 康太は言われた通り洋書を手に取ると、堂々と鞄に入れ書店を出ようとした だがあからさまに万引きしてますって姿に、店から出て直ぐ…捕まった 別室に連れて行かれる康太を一生と四宮見ていた… かなり時間が経過したが、康太は解放されなかった 一生と四宮は帰るに帰れず、駐車場に腰を下ろしていた 日も暮れた頃一台の黒塗りのベンツが止まった 車の中の人間が何処かへ電話すると、康太が店の人間に連れられて出て来た 車の中の人が車から降た そして、店内から出て来た人に深々と頭を下げた 顔を上げたその人は、強靭な体躯に、仕立ての良いスーツを着て 顔は俳優ばり精悍な容姿をしていた その背中には怒りが滲み出ていた その人は康太を店の人から引き取ると、その場で容赦なく康太を殴った 手加減なく殴られた康太は吹き飛んだ 「私の目を見られない事を何でした!」 康太は俯き拳を握る 迎えに来た飛鳥井瑛太の顔を康太は見ることが出来なかった 答えない康太に焦れ、瑛太は倒れている康太の胸ぐらを掴み…もう一度殴る 何度殴られても康太は抵抗しなかった 唇の端から鮮 血が流れる 「オレはオレの信念を貫いた!」 血を拭い康太が吠える 「お前の信念が犯罪か…笑わせるな!」 瑛太は悲しくて仕方がなかった 溺愛して来た弟の姿が悲しくて殴り飛ばした 曲がる事なく育てる…… 兄の愛だった…… ボロ雑巾の様になってもなお瑛太は康太を殴った そんな康太を見て、一生と四宮は何も考えず飛び出した もう殴らないで欲しい! その一心で、一生と四宮は飛び出し康太の前に跪いた 二人は康太の前に、康太を庇い、両手を広げ、康太を守ろうとした そして生まれて初めて、人に頭を下げ哀願したするかのように、飛鳥井瑛太の前に土下座をした 瑛太は影に隠れている人物がいるのに気が付いていた 単純な弟の仕出かした大それた事件は、大体読んでいた 「俺達が康太に命令しました!」 「僕達が一番悪いんです」 だから、康太をこれ以上殴らないでと、地面に頭をこすりつけた 「康太はやり方を間違えた! 私は兄として弟が道を外したら殴ってでも軌道修正する! それが兄としての努めだと思っています!」 瑛太は毅然と言い放つ 一生と四宮は、完敗だと思った 「車に乗りなさい。君達も一緒に来なさい」 飛鳥井瑛太は伸びてる康太を回収して助手席に座らせると、後部座席のドアを開けた 一生と四宮は後部座席に乗り込んだ 家に着くまで、車内は重々しい空気が流れ、二人は居たたまれなかった 飛鳥井家に着くと応接間に通され、康太は綺麗な男性に手当てを受けていた 「蒼兄ぃ痛いよぉ…恵兄は頭を冷やさなくて良いよ」 「痛くないから瑛兄に逆らったんだろ?」 蒼太はゴシゴシと手荒く手当てをする 「そうそう! お馬鹿な頭で考えるから瑛兄に逆らっちゃうんだぞ」 恵太はアイスノンで頭を冷やしてやる 「さぁさぁ康兄ちゃんお茶でも飲みなよ 康兄ちゃんの好きな玉露だよ」 末の弟の悠太がお茶を持たせた 長兄の瑛太は優しい顔でそんな兄弟を見ていた 「康太は絶対に曲がらない! 私達が絶対にアイツを曲がった人間にはしない! 君達にとって康太こそが君達の指針になるんじゃないのか…? 康太と共に生きてやれるなら、一緒に居てやってくれ それが出来ないなら、康太の前から消えてくれないか? 判断は君達に任せる」 瑛太はそれ以降口を開く事はなかった 緑川一生と四宮聡一郎の出した結論 飛鳥井康太と共に生きよう 康太の防波堤になろう 決めて、以来行動を共にして来た 飛鳥井家は一生と四宮を暖かく迎え、以来現在に至るまで、交流は持たれている ただ一つ 康太の誤算は 桜林学園の四悪童の一人に自分が数えられている事だった

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