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第13話 四悪童 一条隼人

一条隼人は退屈していた 欠伸が出る程退屈な毎日に辟易していた 金や名声に群がる蛆虫どもばかりで反吐が出る 金や名声に近付く奴は後を経たない 思い通りにならない奴はいなんて、存在しない この世の中の人間は2通り 媚びる奴か無視する奴 媚びる奴はとことん醜くて、無視する奴は一条に近付かない 芸能人の一条隼人だと解ると、女は股を開く 男は自慢したくて友人になろうとする 醜い…人間は醜い そして何もかもが思い通り 人間はチョロイ そんな学園生活を続けろと、マネージャーは言う こんな毎日に意味などないのに、一条隼人のマネージャーは、学校と言う檻に一条を入れた 目が醒めたくない位…退屈だ 一条隼人は机に足を乗せ、椅子に凭れて寝ていた 誰も注意なんかしない 家にいても、誰も一条の面倒を見る人間なんていなかった 一条小百合の息子だからと、芸能界に入ったのは小学校の頃 小鳥遊と言う、今のマネージャーに預けられ仕事を始めた 中学になると小鳥遊は突然、一条を修学館桜林学園の寮に入れた 寮に入っても仕事は続けた 仕事をしながらの寮生活になるから、小鳥遊は学園側に多額の寄付をし、一条隼人にはお構い無し…とさせた 何不自由ない生活は用意されたが 一条は…体の良い厄介払いだと思っている マネージャーの真意は、一条に年齢らしい生活をさせたかったのだ 感情や情操面で欠落して育ってしまった一条の先は見えていた 役者をやっても、彼は演じられないのだ 何故なら、彼は体験していないから… 早くから大人の世界に入ったのと、彼を育てる環境が大人しかいない場所だったから、早くから大人びてしまい、その癖中身のない人間へと成長させてしまったのだ 小鳥遊は、彼に年相応の環境を用意した その世界で、彼は学び、そして親友と呼べる人間を作って、感情を養って欲しかった そんな思いで寮にいれたのは、マネージャーの小鳥遊一樹だった 「隼人君はまだまだ色んな体験をする必要があります 今のままじゃ遅かれ早かれ壁に突き当たります」 小鳥遊が言うまでもなく、一条は既に壁に突き当たっていた 彼は何を演じても一条隼人にしかならない事は、一番良く解っていた そして一番のネックは目立ちすぎるから… 一条の姿は脇役を食う モデルで終わるしかないか…巾を広げるかの瀬戸際にいた 大根役者 役者の一条隼人の評価だった 木偶の坊 モデルの一条評価だった ツマラナイ…ツマラナイ 一条はイライラしていた その日、何時もはガヤガヤ騒いでいる五月蝿い程の教室が、やたらと静かで一条は前を向き目を開けた 休み時間になると、何時も寄って来て媚びる奴等が、静かに座っていた 何でだ?と思うと、教室の中心に、悪童と呼ばれる奴がいた 一条にしたら…こんな小さな学園で悪童なんて呼ばれている奴等が、お子様に思えて仕方がなかった 学園と言う土俵で騒いでいる、お山の大将の様に幼稚に見えた 差し詰め、アイツはお山の大将の金太郎か? 自分の考えが似合いすぎてて、一条はクスッと笑いを溢した すると悪童の1人、飛鳥井康太が振り向いた キツい瞳は水晶玉の様に輝いて綺麗だった 真摯な視線が一条を貫く 一条は康太に魅入られたかのように、動く事が出来なかった 視られれば骨の髄まで知られてしまいそうで、一条は固唾を飲んだ 康太は真っ直ぐに、ゆっくりと一条に近づくと 椅子を蹴り飛ばした 机に足を置いていた、不安定な体が吹っ飛ぶ 一条の体が宙を舞い……落ちた ガターン 物凄い音と共に一条の体は床に叩きつけられた 一条は何が起こったのか解らなかった 急に襲う痛み 一条は康太を睨み付けた 今まで感じた事のない怒りが込み上げる 何だこの怒りは…? 何でこんなに腹が立つんだ!! 一条が立ち上がると、一生と四宮が康太の前に立ちガードした 「机は足を乗せる場所じゃない! ツマラナイなら帰れよお前!」 康太は言い放った 何言ってんだ…コイツ オレ様は一条隼人だぞ! 何で媚びない…何で平伏さない!! 驚愕の顔をする一条 「オレ様を誰だと思ってるのだ!てめえ!」 一条はわめき散らした だが康太は恐れる事もなく 「ただの一条隼人!同級生だろ? それ以上でも以下でもない 特別扱いして欲しいなら、他の学校行けよ」 と、言い捨てた ただの一条隼人… そんな事を言ってのける人間なんていなかった… 一条は今自分の感じている感情に焦り、反論するのも馬鹿馬鹿しいとばかりに、立ち上がり、教室を出た 腹立ち紛れに教室を出た一条は、携帯を取りだし直ぐ様マネージャーに電話した 「小鳥遊、オレ学校辞める! 今すぐ迎えに来い! こんな学校にいられるか!」 一条の怒りは収まらない そんな一条を他所に小鳥遊は一条の変化を喜ばしくさえ思っていた 「そこで逃げたら、隼人さんはそれまでですよ…それでも辞めますか?」 冷静に諭す小鳥遊に一条は感情を露にして叫んでいた 「オレ様の椅子を蹴り飛ばした奴がいんだぞ! オレ様のだぞ! こんな学校いられるか! アイツがいる学校なんざオレ様は御免だ! 小鳥遊、それでもお前はオレ様に此処にいろって言うのか!」 小鳥遊は一条の器に年相応の感情が蓄積されて行く様を、感激に似た思いでいた 「隼人さんはどうして椅子を蹴り飛ばされたんですか? 君に非はないんですか?」 「小鳥遊…てめぇ首にしてやるからな!」 一条は唸る 「ええ。して下さい。待ってます」 小鳥遊には脅しは通用しない 「隼人さんが感情を露にするなんて…… 隼人さんを怒らせた方は凄いですね 隼人さん、怒られて腹が立ちましたか?」 「立ったよ! …すげぇ腹が立った…こんなに怒りを覚えたのは生まれて初めてだ!」 「隼人さん…貴方を変えてくれる方が登場した事を、この小鳥遊は嬉しく思います 隼人さん…もう少し、そこで過ごしてみては如何ですか?」 「………」 一条は電話を切った お尻が痛かった 誰も一条に喧嘩なんて売らない 飛鳥井康太…か 康太の真っ直ぐ自分を射抜く瞳 媚も打算も目論みも含まない瞳‥‥ 魅入られてしまえば骨の髄まで暴かれてしまうしかないのに‥‥ その瞳の力強さに‥‥嫌悪はなかった あんな目で自分を見た人間は今までいなかったな…と思った その日一条は午前中仕事だった 寮に戻って来たのが11時前だったから、授業に出ようかと思案したが、授業の途中だから諦めて食堂に来た 早目に昼食を取って静に過ごしたい…から 食堂は昼前とあって、閑散としていた 一条はスパゲティと紅茶をトレーに置き、席を探していると、既に食事をしている人間が目に入る 飛鳥井康太… 彼は1人で昼食を食べていた 一条は、食堂に行くと何時も康太を見かけたから、彼は寮に入っているんだと思っていた が、通学で食堂には、帰宅まで腹が持たないから居着いているんだと、取り巻き親切に教えてくれた 康太は一条を見付けるとニコリと笑って話しかけて来た 「よぉ一条!お前も腹へって食いに来たのか?」 まるで昔からの友人だったんじゃないかって、勘違いしたくなる位に気安く声をかけてくる 「仕事…だったんた」 「まぁ座れよ。」 康太の横限定の席を指差す 「あぁ…」 一条は何の抵抗もなく座った… 康太は真っ直ぐ一条を見る 「一条隼人!お前…モデルしてんだな…」 今更知ったのかよって思ったが、一条は頷いた 「お前を蹴り飛ばした日にさぁ、帰ったら家中お前のポスターが貼ってあんの! お前の祟りかよって焦ったわ」 ガハハと笑って沢庵をポリポリ食べる 「俺のポスター?」 「そう。会社から家ん中まで、 お前だらけ! すげかったなぁ…… あぁ俺んち飛鳥井建設、お前がCMに出たあの会社」 康太はサラッと言ってのけた 一条はガッガツとご飯を平らげる康太をボーッと見ながら、最近やった仕事に思いを馳せる あぁ建築会社のCMとポスター撮りしたっけ …えっ…あのゼネコン…コイツの家のなんだ… やっと康太の言う事に考えが追い付く 考え事をしていたから、康太がじっと一条の顔を見ているのに気付くのが遅れた 「なっ…なんだよ…」 「お前さぁ…何でそんなに何時もつまんねぇ顔してんの? そんなに自分の仕事が嫌なんか?」 図星を刺されたようで、一条は困惑した…… 「オレん家なら嫌なら辞めちまぇ! って殴られる 嫌々やるなら、辞めちまえ!ってのがオレんちの口癖だかんな…」 「……お前には関係ない」 「関係ないけどさ、お前見てたら堪らなく悲しくなんだよ お前…育てられる事をされなかった子供みたいでさ、虚勢張って威張ってるけど、気付けばお前の回りには何もねぇ それはお前が築くのを辞めたから…お前の進む先には草木一本生えてねぇんだよ」 一条はテーブルを叩き立ち上がった 「煩い!黙れ! オレ様が望んで手に入らない物はないのだ! この世で手に入らない物はない…! そんな憐れんだ目でオレ様を見るんじゃねぇ!」 一条は叫んだ 我慢して来た日々を吐き出すように、一条の心は泣き叫んでいた 康太はそんな一条を見ていられなかった だが今の一条に手を差し伸べたって…今の一条には届かない 康太は一条の鳩尾に右ボディブローをお見舞いした 黙らせるには、より強い力で制す こう見えて康太の腕っぷしは強かった うっ…!一条は腹を押さえて蹲った 「だから、お前ぇは躾が出来てねぇガキだってんだよ この世はお前の物か? すげぇな笑っちまう」 康太は蹲った一条の横に膝をつき、一条を抱き締めた 「世界がお前のもんなら、何でそんな哀しい顔してんだよ 望んで手に入らねぇもんがねぇなら、何でお前ぇは、そんなに満たされねぇ顔してんだよ。」 物心ついた頃から、無償の愛を与えられた事はない こんな風に見返りもなく、抱き締めてくれる奴はいなかった 康太の温かさが、一条に伝わって来る 「お前に何が解る…オレ様の何が解る」 康太に抱かれ、一条は魘された様に呟く 無償の愛なんて、誰もくれなかったから…信じられる筈がない 「あぁ、オレにはお前の事は何も解らねぇ…… それはお前ぇと知り合ったばかりだかんな…… だけどよぉ何もしらねぇが、お前と過ごして行くうちに、解ってくる事も出来る 時間をかけたら、お前ってどんな奴か見えてくる!違うか?」 一条は顔を上げて…康太を見た 「お前の目には何も写っちゃあいねぇ だけどよぉ、そんな無駄に時間を使うのは惜しいと思わねぇか? 今しか出来ねぇ事も、今しか味わぇねぇ事も、お前ぇは無駄にして、過ごしてんだかんな」 「飛鳥井…?」 「お前の器はカラだ 中には何も入ってねぇ オレはお前の中に、色んな物を詰めてやりてぇ 一条隼人、お前の瞳には何が写ってる?」 一条は康太の瞳を見詰めた 鳥が最初に見たのを親と認識するように…… 一条は最初に見た康太を唯一無二の存在に認識した 「飛鳥井…康太 オレ様の瞳にはお前が写ってる」 「じゃあオレがお前の親鳥だ」 至極、簡単に康太は言う 図星を刺して、トドメを刺した後に、無償の愛をくれてやると言う こんな奴、初めてだった カラっぽの自分を埋めてやると、言ってくれたのは、康太だけだった 「お前が親鳥か…」 一条は、自分よりヒナの様な奴が親鳥だと、偉そうに言う姿に、何だか笑えた 「お前…そんな風に笑えんだな」 康太が嬉しそうに笑った そう言えば、こんな風に笑ったのって初めてだった 寂しくなんかないって虚勢をはって塗り固めて来た自分が、ポロポロ崩れて行く 「隼人、埋められなかった日々なんて、直ぐに埋まっちまう位、一緒にいてやる だからオレと一緒にいろ オレがお前を守ってやんからよぉ! だからオレの側にいろ」 「康太…」 そんな事言ってくれた奴なんかいない 康太は一条に出来た初めての友達だった 見返りも何も求めない無償の愛情 一条に与えられるのは…初めてだった 母親は子育てより、女優を選んだ。育てられない変わりに使えない位のお金を与えた 何時しか一条は望んでも手に入らない物を望むのは辞めていた 一条は康太に抱きついて号泣した 今まで流した事のない涙は堰を切って溢れだしていた 一人だった辛い涙 康太はそんな一条の背中を撫でていた 食堂に一足遅く駆け付けた一生と四宮の瞳に、康太と一条の姿が飛び込んで来た 康太が、口煩く注意するのを、隼人は笑って聞いていた そんな二人の姿に一生と四宮は全てを察知した 康太が一条を迎えるなら、一生と四宮に異存はなかった この日から四人は常に行動を共にするようになり 何時しか四悪童と呼ばれるようになった 修学館桜林学園には四悪童と呼ばれる生徒がいた 彼等は日々思い付いた限りの悪戯をする 学園長の銅像の竣工式祭典で幕が取り払われた銅像はセーラー服を着ていた 怒り狂う学園側と大爆笑する来賓と生徒 またある日は、一条が歌を歌いたいと学園の放送室をジャックして勝手にコンサートを開いたりもした この時も生徒は喜び、一部の教師は怒っていた 「でけぇゼリーが食ってみてぇな 飽きる程食ってみたい」 と呟いた康太の為に、プール一杯のゼリーを作った スプーン持ってプールに来い! って康太の号令で全校生徒や殆どの教師も参加してしまい ほんの一部の教師は怒ったフリをしていた 電車って速いんかな…の一生の呟きで、 江ノ電と競争したり 四宮が体育館でドミノやりたいって言ったから体育館を占拠して、ドミノ作って…記録を残したり 馬鹿げた事を必死で頑張った やろう!って事は何でもした 悪事は尽きる事なく、毎日が楽しくて仕方がなかった 最近の四悪童の悪戯の悪事は、皆を楽しませてくれ、密かに楽しみにしえいる生徒や教師ばかりだった 一条の仕事の巾も、何時しか広がっていた 毎日の充実が、一条の仕事の活動力になっているかのように、一条は色んな顔を魅せた 気負っていた時には、何もかもが上手く行かなかった 自分の先も限界も見えていたが…今は違う 自分の仕事に誇りを持って、一つ一つをこなすようにしている 手を抜けば、チェックしていて、投げ飛ばされるから、一条はどんな仕事も必死で頑張った どんな時も自然に表情が出るようになったのは、彼が積み重さねた、一条の一部だった いつしか一条は、知名度を上げ、スケジュールの調整が追い付かない位、仕事が舞い込んで来る様になっていた 気付けば今一番使いたいタレントになっていた 一条のマネージャーは、一条を変えた康太、一生、四宮に逢いたいと申し入れた 初対面の時三人は困惑する程、感謝された 一条が17になった時、小鳥遊は康太は訪ねて来た 「康太さん…隼人君と出逢ってくれてありがとうございます」 小鳥遊は深々と康太に頭を下げた 康太は何故頭を下げられたのか、解らなかったから、焦った 「今日は康太さんに、お願いがあります。 聞いてくれますか?」 小鳥遊は康太の回りにはいない、静かな大人だった 静かだが芯の強い、人を見極める目を持っていた 「オレに出来る事なら聞くが 出来ねぇ事は断るかんな! それで良いなら聞く」 小鳥遊は、康太の出来ない事は聞かない…と言う、ハッキリした態度に微笑みを隠せなかった 小鳥遊は康太にデジカメを渡たした。 「何??」 と戸惑う康太に小鳥遊は 「隼人さんの写真を撮って下さい」 と頼んだ 「僕は隼人さんは、本当に変わったと思います カラっぽだった隼人さんを再生してくれたのは、康太さん…貴方です 一条隼人が、貴方だけにしか向けない顔を、撮ってきてくれませんか?」 「オレに撮れるなら…」 「貴方にしか、取れません! 撮ってきてくれませんか?」 「解った!でも撮れなくも文句は言うなよ」 「解っています。 康太さん、僕は今の一条隼人を写真集に残したいんです 何も持たなかった少年が、彩られ成長した姿を残してあげたいんです でも彼の学園生活の場にスタッフを入れたくないんです あの場所は彼の゛唯一無二の場所″ですから康太さん、お願いします。撮れなくても構いません 貴方がシャッターを切りたくなったら撮ってください 全てあなた次第で構いません」 小鳥遊は真剣だった 康太は、カメラをポケットに入れた 康太には小鳥遊の気持ちが痛い程解ったから 小鳥遊は一条に伝えたいのだ 貴方はもう孤独な迷子なんかじゃないって… 康太にしか撮れない一条隼人を撮って欲しい 康太にしか見せない顔は、彼しか撮れないから… だから無理を承知の上でお願いした 後に康太が撮った写真が話題を呼ぶ 写真集は増刷しても追い付かない位ヒットする その写真は、光に包まれた一条が全開の笑顔で笑いかけていた シンプルな写真だが、誰もが魅了された まさに飛鳥井康太にしか撮れない一枚だった

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