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第14話 確立
康太は夢を見ていた
目覚めた時に懐かしくて、錯覚する程に…
懐かしい夢だった
幸せそうに笑う康太に、榊原は気づき声をかけた
「康太…目が醒めましたか?」
トロンとした目が榊原を見る
榊原は思わず接吻していた
唇に暖かい湿った感触
朝からするには濃厚過ぎる
このままじゃヤバイかも
康太は焦った
じぃちゃんのブレスレットも作りたいから、帰りたいのに…
康太は夏休み当日に帰省出来なかった
次の日は痛くて動けなくて…今日こそは帰らねば…と思っていた
「さっ…榊原」
名字を呼ぶと睨まれた
「伊織……今日は帰る
絶対に帰るから…」
だから、変な事はしないでぇと訴える
「君が電話番号とアドレスを僕に教えてくれて、連絡を取れる様にしてくれたらね」
榊原伊織は抜かりのない男だから、そんなのはリサーチ済みだが、康太から教えて欲しかった
「オレは昨日教えるって言ったのに…お前があんな…」
恥ずかしげに顔を赤らめた
榊原伊織…獣になりたい…17歳だった
このままでは…今日も帰せない
榊原は話題を変えた
「何か凄く幸せな顔して寝ていましたね
あんまり妬けたから、犯してしまいたくなりました」
しれっと榊原が言う
康太は背中に冷たいものを感じた
この男…嫉妬深かったりする…?
「昔の夢見てたんだよ
一生や聡一郎、隼人と出逢った当時の夢見てた
懐かしいかったなぁ……」
うっとりと笑う
全くこの子は…弁解になってないし…
「本当は僕以外の夢は見て欲しくないんですが…?
君の夢の中だって僕以外は許せない…と言いたいんですが……
貴方達の絆は強いですからね
踏み込んだり、壊したりはしません
少し妬けるのは許して下さいね…」
チュッと頬に接吻
そんな榊原を康太はじっと見ていた
「伊織と初めて知り合った時、すげぇ睫毛長げぇなって見惚れてた
お奉行やったら絶対に似合うだろうな…って思った
そんな伊織と友達になれて、オレ、すんげぇ嬉しかった
舞い上がってた
でもお前に嫌われたと思った時、ショックでさぁ…入院しちまったんだ
そんな時、アイツ等必死に励ましてくれた大切なんだ奴等が…伊織とアイツ等を区別つけらんねぇよ」
始めて聞く事に榊原は驚いた
「入院?嘘…そんな事知りませんでした」
榊原が酷く傷付いた顔をする
康太は慌てて説明をした
「だって…入院したの春休み中だったから…」
春休み…だから解らなかったのか……?
榊原は疑問に思う
「で、何で入院になったの?」
聞くと……
何だか康太はバツの悪い顔をした
「どうしたの?康太…言いたくないんてすか…?」
言いたくないみたいだ…
「康太…話して」
と、畳み掛けると重い口を開いた
「栄養失調…ご飯食えなくて倒れた」
えっ!これはまた意外な…まぁ康太ならどんな意外な事もありか
「僕はずっと側にいます
ずっと康太の側にいます」
そっと抱くと手の中に確りと収まる康太
もう二度と離さないって、思いを込めて抱き締めた
やっぱ康太のご家族にはご挨拶は必要だな
近いうちに自分の親にも紹介しなきゃな
近いうちに康太を自分の親に逢わせる
自分の恋人と紹介する
それが、榊原のケジメだった
両家の親に逢って交際を認めないにしても、黙認位はさせたい
でも問題が1つ
康太は無類の時代劇好きなのだ
時代劇好きな康太には、絶対に親は逢わせたくない……
逢わせたら絶対に感激する!
いや…そっちが良いなんて言われたら…
絶対に嫌だ!
くれてやる気は更々ないし
でもなぁ…榊原は苦悩する
榊原の家は、あまり知れ渡っていないが、芸能一家だった
父親は時代劇の重鎮と呼ばれる役者で、出来れば康太に逢わせたくない
母親は宝塚を出てからは時代劇にも出る役者で、これまた康太に逢わせたくない
兄貴にはもっと逢わせたくない!
つい最近康太が、兄貴の出た映画をテレビで見て絶賛してたから
康太は目を輝かせて「なぁなぁ榊原、陰陽師の安倍晴明やってた役者カッコ良かったな」なんて言ってた
それを聞いた時に食らった衝撃は凄まじかったな……
まさか実の兄に殺意を抱くとは…
参ったなぁ…
だけど、康太を離す気はない
離してやるものか!
死んでも食らいついてやる
康太とずっと一緒にいるには、早目の布石は必要だ
康太の親族には、既成事実で強引に認めてもらおう
まずはそれから固めて行くしかないか…
取り合えず、康太を家に送って行って、御家族にご挨拶はしないとな……
榊原は覚悟を決めていた
康太とこの先も生きて行く覚悟を…
誰にも内緒で続けて行く事は容易い
知 らなきゃ誰にも邪魔されない
だけど、それは護られている期間限定だけの事
康太を日陰者にするつもりもないし、何よりこの先、隠すメリットはない
高校を出て、大学を出て、社会人になって…独身でいると回りが敬遠する
康太と居られる時間が限られてしまう
康太は家族に結婚を迫られたら…親の期待に添えない自分を悔やむだろう
その為の礎…二人で生きていく為の布石
罵られる覚悟なんて、とうに出来ている
反対されるのも想定内だった
榊原は動けない康太に服を着せた
康太の首に着いた赤い痕を見つけ…
自分の執着心に苦笑する
痕は首筋や鎖骨だけじゃない
腰骨から内腿にもビッシリ着いていた
一発でバレるだろうけど……
でも構わない
康太を離す気はないから …構わない
榊原は康太を家に送るつもりだった
康太の首にキスマークが着いていたら、一緒に帰って来た榊原と、そう言う関係なんだって解る
家族に認めさせるには格好の条件だ
それをやるには康太の気持ちが第一条件だった
「康太、君は僕の事、どう思ってますか?」
真摯な瞳で問いかける
一生一緒に生きて行くには康太の気持ちが伴わないと、無理だから…
「本当の事を言って…僕は君を離す気はありません
大学に行っても社会人になっても、年寄りになっても、君といたい
また康太となら、生きて行けると思っています
親にだってキチンと紹介して僕達の事を認めてもらいたい
だけど、僕が、強引に康太を抱いたから、康太の気持ちが僕に引き摺られているだけなら……
僕はそれが出来ない…だから答えて康太!
君の気持ちを……」
康太は柄じゃなく弱気な榊原の胸をポコポコ叩いた
「伊織が強引だったからオレが勘違いしてると思ってんのかよ!
オレは伊織が好きだから…抱かれたんだ!
ばかぁぁぁっ!」
榊原は腕の中に愛しい存在を抱き締めた
「嫌いだったら弱ってなかったら…潰すもん」
榊原はぞーっとした
「康太は僕の求婚を受け入れてくれるんですね」
「えっ?球根??綺麗な花が咲く?」
榊原はガックシ肩を落とす
「それも球根ですがね、僕のはプロポーズの求婚なんですがね」
「プ…プロポーズぅ」
「そうですよ
僕と一緒に生きてくれますか?」
「おう!」
康太返事は軽かった…
それでも返事もらったもんね
榊原は……
突き進む覚悟をした
「帰りますよ、康太」
こうなったら急ぐ
榊原はテキパキ支度をして、康太の荷物まで持つ、その合間に車を呼んだ
「ハイヤーを呼んでおきました
さあ行きますよ!」
いつの間に…康太は榊原の行動力に執行部になれた実力を垣間見た
決戦の地は…飛鳥井家、本陣へ
ハイヤーに乗ってる最中に康太は母親に電話を入れた
「あっ母ちゃん、オレこれから帰るから!
榊原に送ってもらうから」
それだけ言って電話を切る
切られた方の母親は訝しげに携帯を見ていた
「何かあったんですか?母さん」
瑛太が問う
「康太が榊原君って子に送ってもらって帰って来るって」
それを聞いた瑛太は展開が早いんでないかい??と密かに思った
榊原伊織を始めて見た時、康太に抱いている気持ちを目の当たりにした
榊原は康太への感情を隠していなかったから…
「瑛太…あんた何か知ってるわね」
飛鳥井瑛太も桜林の出だったから、同性の恋愛は身をもって体験していた
忘れられない男がいた…
だけど瑛太は飛鳥井の家業を引き継ぐ事は決まっていた
結婚して家庭を持って、飛鳥井の家族を守らねばればならない使命がある
辛い別れを選択した
自分で選んだ道だが…忘れられない想いに苦しむ夜もある…
瑛太は弟たちにはそんな想いを抱かせたくなかった
「康太は俺の弟で、母さんの息子ですから…俺達は何があっても康太の味方でいたいと思っています」
瑛太の重い言葉に母親はもう何も言わなかった
「瑛太、家族全員集めなさい!
今すぐ応接間に行かないと私が許さない!
…って言いなさい」
「はい!今すぐ!」
康太が何かを伝える為に家に来るなら、母は完璧な体勢で迎えてあげるわ
お前決めた事なら、家族全員聞 く必要があるんだから…
母は薄々感ずいていた
そんな事を知らない康太と榊原は、ハイヤーの運転手の気配りで混雑する道路を避けかなりの速さで走ってくれて飛鳥井家へと着いた
インターフォンを鳴らすとドアが開き玄関には…
飛鳥井家、勢揃いだった
康太は全員が出てるのに驚いたが
「ただいま」と挨拶する
見るからに康太はくたびれていた
首筋(情事)の痕を隠すわけでもなく…いや、隠しきれないか…
まさに犯って来ました!と、言ってる様なもんだった
流石迫力
少し怯む…榊原は気後れしてしまった
気を取り直して、榊原は飛鳥井家の方々に
「初めまして、榊原伊織と申します。以後お見知り置きを!」と頭を下げた
そして姿勢を正すと榊原は凛と胸を張って、怯む事なく立っていた
育ちの良さが滲み出ている好青年なんだが…どうしたもんか…と、瑛太は頭を悩ませる
「応接間へどうぞ」
母親は家族や榊原を応接間に招き入れた
テーブルの上にお茶を出された頃を見計らって、榊原は
「今日は貴重なお時間を割いて戴いて本当にありがとうございました」
と感謝の意を述べて頭を下げた
康太が女なら申し分のない相手だったのに…
重苦しい場の雰囲気に、誰も口を開こうとはしなかった
仕方がなく蒼太が悪役を買って出た
「榊原君、今日は君は何しに来たのかな?
康太の友人にしては、二人の醸し出す雰囲気は、友人のそれではない!」
榊原は飛鳥井蒼太を見た時、清家を連想していた
綺麗な顔に似つかわしくない辛辣な言葉を投げ掛ける悪魔 清家静流に…
「僕は康太のご家族に、ご挨拶に来ました!」
「見ての通り、僕達は恋人同士です…って下りだったら、陳腐すぎるから、帰ってくれないか?」
蒼太の唇の端が皮肉に歪む
榊原は、こんな皮肉なら、毎日清家に浴びせられていた
「今日は本当にご挨拶に来ただけです
こんな状態の康太を、一人で帰す事は恋人として出来ませでした」
「君は康太とこの先どうしたいんだ?
高校時代の一時の恋人ごっこなら、頼むから康太と別れてやってくれないか……
あれは遊びで付き合う事の出来るタイプじゃない
康太は何時も全力疾走する
走り出したら止まらない
止まった時にもしも、一人になってしまっていたら…康太の受けるダメージは計り知れない…」
蒼太は榊原をじっと見据えて言った
「前に君に嫌われたって絶望した時は栄養失調になる位だった…
今度君を失ったら、栄養失調位ではすまないだろう…
そうなる前に…遊びなら別れてやってくれ」
「遊びで相手の家に来る程僕は厚顔無恥ではありません!
そして今後も別れる気はありません!
手放す気もありません!」
榊原は真っ直ぐ蒼太を見つめ言い放った
「僕達の事は、隠そうと思えば隠し通せます
寮と言う隠れ蓑もありますから
ですが僕は、康太との事を隠す気はありません!
康太を日陰の場所に置くつもりは更々ありません!
近いうちに僕の両親に康太を紹介します
反対されたって構いません
僕は康太と生きていきます
この先も、誰に反対されたって僕は康太を手放したりしません」
「でも…君達の関係は決して世間では認められないよ?
社会の秩序で弾かれる
覚悟の上で言ってる台詞なのか?」
「別に僕は世間に認めてもらえなくても構いません!
だけど、康太が受けるダメージは少ない方が良い……
せめて家族だけでも、康太を否定しない下さい
康太を愛した僕が全て悪いんです……」
榊原は深々と頭を下げた
「蒼太、お前の敗けだ!
そもそもお前に悪役は似合わない」
瑛太が言うと、蒼太は外人ぽく肩を、竦めた
康太は、蒼太と榊原の会話を聞いていて、自分の口から言わなきゃいけない…って思った
飛鳥井は自分の家だ
じいちゃんがいて、親がいて、兄弟がいる
そんな皆に解ってくれとは言えないが、馬鹿な家族の選んだ人生の説明は、自分の口からしなければ…
「あのさ、家族の皆には言っておかなきゃ事があるんだ
オレは榊原を伴侶に選んだから
榊原と共にありたいと思う」
胸を張って康太は宣言した
その姿は清々しい程で、康太に翳りも引け目もない
康太は覚悟を極めたのだ
横にいる男と道ならぬ道を一緒に歩む覚悟を
だったら家族は、そんな康太を見守り支えるしかない
「それが、康太の選んだ道なんだな」
一番最初に口を開いたのは、飛鳥井家真贋にして総代 飛鳥井源右衛門だった
「じいちゃん…オレの子供を子守りさせてやる約束破っちまったな……
でもオレは榊原と同じ道を行くって決めたんだ」
「そうか…なら何も言わん!
お前はお前の道を行け!」
飛鳥井家総代 飛鳥井源右衛門は立ち上がると
「康太の家は此処だ
お前が家族に引け目を感じる事はない
そうだろ?」
ニカッと笑った
どことなく康太に似た笑顔だった
その言葉が合図だったかのように
「康兄ちゃん!黙って爆弾投下なんて酷いじやんかぁ!」
末の弟の悠太が康太に飛び付いた
「すまん……なんせ、恋人になったんが、ほんの3日前だからな」
と、ゲラゲラ笑った
3日前…3日前に恋人になって、恋人になって直ぐ、自分のにしたのか…
煮詰まってたんだなぁ…と家族全員、榊原を見た
でも仕方ない か…相手が康太じゃぁ…
榊原は集中する視線を感じて、顔を少しだけ赤らめた
端正に整った顔に色が着く
直ぐにポーカーフェイスに戻ったが……
康太の母は見逃さなかった
時代劇をこよなく愛し、康太を洗脳した母は、榊原にある時代劇の役者の面影を魅い出していた
榊 清四郎、時代劇の重鎮と言われる役者の大ファンだったのだ
榊 清四郎の私生活はベールに包まれていた
私生活を一切公表していないのだ
役者に私生活は関係ないとばかりに、妻の北城真矢以外の家族や、私生活は一切シャットアウトしている役者だった
そんな役者に何処か似てるなと想い玲香は口を開いた
「榊原君、君、榊 清四郎に似ているなんて言われない?」
康太の母は楽しげに聞いた
息子の趣味の良さに、関心する
言われた榊原は…ぐっ!と不意討ちを食らって再起不能
よりによって何であの人の名前を聞かなきゃならないんだ…今、此処で!
問われると、榊原はあからさまに嫌な顔をした
「ど…どうしたんだ榊原」
榊原の不機嫌さは、康太さえ動揺させた
「絶対に似てなんかいません!」
ついつい語気が荒くなるのを感じつつも、榊原は言い放つ
あんな暴君に似てなんかいない!
自分はあの人と違う!
家族を蔑ろにして、役の事しか考えない
身勝手な人間と一緒にされたくなかった
…だから、榊 清四郎にだけは似ていると言われたくないのだ
康太が好きになったのは榊清四郎の面影だなんて思いたくない
男としてのプライドが…そうさせていた
「うちの母ちゃん、榊清四郎のファンだから、許しくれな…伊織」
康太は榊原が、気分を害したと思って謝る
「康太は僕が榊清四郎に似ているから、好きなんですか!
僕は君に愛されてなかったんですか?」
康太の時代劇好きを舐めていたかも……
榊原は不安になり取り乱した
康太は榊原の頭をポカンと殴った
「伊織が好きだって何回言わすんだよ!
幾ら時代劇好きでも、姿が似てても、そんなん榊原伊織じゃない!
良く耳かっぽじいて聞きやがれ!
オレは伊織が好きなんだ!」
康太はフンどうだって顔をした
聞かされた家族は…もう好きにやって状態だった
榊原は康太のラブコールを受け
「失礼!」と姿勢を正した
「僕としては、物凄く不本意ですが………
榊 清四郎…もとい榊原清四郎は僕の父親です」
【えええっ~!】
飛鳥井家のハーモニーが響き渡る
「そんなに驚かなくても………」
この家族の反応はよく似ている………
一斉に驚き、穴が空く位、榊原を凝視した
「うちは所謂芸能一家ってやつです
父親は榊清四郎、母親は北城真矢
兄は 九条笙 …」
「あっ!晴明やってた役者だ!」
康太が喜ぶ
「僕は役者の道には進みません
父が最近まで私生活を隠しているのは僕が芸能界に進む気がないからです」
飛鳥井家は全員唖然となった
「なぁ伊織…伊織の家族に逢ったらサインもらって良いか!」
康太は転んでもタダでは起きなかった
「あら康太、私もサイン欲しいわ」
「わしだってサインは欲しいわい」
母親が言うと、じいちゃんも言う
もう収拾が着かなくなっていた
「すみませんね………榊原君……
我が家はミーハーな人間が多くて」
「構いません……」
飛鳥井家は時代劇の話しに花が咲き、榊原は中々帰れなか
夕飯まで戴き帰っろうとした時には……
日付が変わってて、飛鳥井家に泊まる事になった
榊原は近くのホテルに泊まるから…と、辞退した……
交際を反対されなかっただけでも感謝しなければいけない立場だ
だが、飛鳥井玲香の
「もう貴方も飛鳥井の人間だから遠慮しないの…」
と言う言葉で、榊原は飛鳥井家に泊まる事になった
康太が選んだ人間なら、私達はそれを受け入れる
それが飛鳥井の人間なのよ…と、美しく笑った
榊原は、飛鳥井家の好意に甘え、泊まる事にした
榊原は、リフォームした康太の部屋に、泊めてもらう事となり嬉しかった
康太の生活が見えるのだ
嬉しくて堪らなかった
「じゃあ、そろそろオレ寝るわ
あっそうだ、蒼兄
こう言う石を加工してくれる友人がいるって言ってたよな?」
康太は荷物から一条にもらった箱を取り出すと、蒼太に渡した
蒼太が箱を開けるとそこには、原石がゴロゴロ入っていた
「これ…どうしたんだ?」
康太には解らないかも知れないが、見る人が見れば解る、一級品の原石だった
「隼人が仕事でハワイに行った時に頼んだんだ
それでじぃちゃんのブレスレットを作って欲しいんだ
でもオレ金ねぇから、蒼兄頼めるかな?」
「隼人って、一条隼人君?」
「そう!蒼兄逢ったよな?」
今をときめく一条隼人なら、こんな石でも用意出来る…か
蒼太は納得した
「あぁ、解った
出来たら教えるから、お前がじぃちゃんに渡せ」
「うん!」
康太は笑って答えた
そして、榊原と一緒に部屋に行った
家族は部屋に消えた康太に想いを馳せる
幾ら榊原が、康太を愛していても…
人目と人気を気にする役者家族に、康太の存在を認めてはもらえないだろうから…
瑛太は一番溺愛して成長を見守って来た弟の行く末を案じる
そんな瑛太の肩を叩き、父は言う
「何があっても康太は飛鳥井の家族だ!」
…と。
家族は何も言わずに頷いた
初めて康太のお部屋に招かれた榊原は、感激を噛み締めていた
「これが、康太の部屋?」
「…らしい」
「…らしい???」
疑問に康太を凝視する榊原に、康太は説明する
「三番目の恵兄が結婚したかんな
オレの部屋は潰されたんだよ
新婚の部屋になった
この部屋はじぃちゃんがリフォームした部屋だかんな
今日、初めて入るんだよ」
康太の部屋は前の部屋より広かった
じぃちゃんの部屋を半分潰して、康太の為に作った部屋
家具もベットも、じぃちゃんが揃えてくれた物だった
1LDK位ある部屋に康太は今日、初めて足を踏み入れた
「康太は愛されてるんだな…家族の全員に愛されてる」
「オレも家族は好きだ
この家に産まれてオレは良かったと思う」
「僕と生きてくれる?
ずっと、一緒に……死ぬまで一緒にいてくれますか?」
榊原が真摯な瞳で康太を見詰めた
「伊織といる!
どんな障害かあっても、オレは伊織といる
愛してるから伊織と共にありたい」
榊原は、康太を抱き寄せた
「此処が康太のご実家じゃなければ、抱いてしまうのに…」
榊原は、本当に残念そうに呟いた
「あんだけ犯って…まだ足んねぇのかよ…」
「僕の愛は尽きないんですよ」
「尽きたら困るつぅの」
そう言い康太は笑った
子供のような顔で笑っていた
愛しい
本当に……愛しい……
これ以上愛せる人は見付からないだろう…
この存在を手離さない為なら、悪魔に魂を売っても良い
「康太…アルバムを見せて…」
「おう!」
康太は押し入れを探り、段ボールを出した
中からは康太の学校のアルバムから、赤ちゃんの頃の写真まで入っていた
二人は写真を見ながら夜が明けるまで語りあかした
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