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第15話 変革

8月1日 康太は場違いな場所に呼び出されていた 高級ホテル のスィートルームにスーツを着た康太はいた 榊原が家族を集め、康太を家族に紹介する その為奔走した だが、顔を出した榊清四郎は不機嫌だった 康太の顔を見るなり、侮蔑の瞳を向けた 全く…こんな下らない事で呼び出しおって… 一週間前にクランクインした時代劇のスペシャルドラマの撮影が上手く行かず、榊清四郎はイライラしていた 若手の俳優はノーミスなのに、榊は、どうしても上手く行かず、NGを出しまくっていた ベテランの面目丸潰れな状態に、余計イライラが募った 今すぐ台本を読みたかった こんな下らない事に私を呼び出しおって! 榊はイライラを紛らす様に、酒を飲んでいた 榊原は父親がイラついているのは承知していた たが、今まで父親らしい事を1つもしなかった人に、最後位は付き合わせたくて引き摺り出した 役者である立場を優先して、この人は家族と一緒に生きるのを拒否した 役が上手く行かない時は、当たり散らされた 父親参観も、誕生日も、X'masも、正月も…… 家族の行事に、榊清四郎は存在していなかった この人に家族なんて必要ないんだ…と思って、寮に入った 役者である母や兄と距離を取ったのは、多分役者にはなれない自分の最大の抵抗だった 役者家族に、役者になれない人間はいらない…と母や兄にも距離を取った 子供じみていたが、榊原の最高の反抗期であり、抵抗だった 榊原は、父親の前へわざわざ行くと、康太を紹介した 「彼の名は飛鳥井康太、僕の恋人です」 榊原は、わざと康太の腰を引き寄せ、抱き締めて見せ付けた どこから見ても男の子供を、恋人だと言う息子が理解出来なかった 「お前は私を揶揄して楽しんでるのか?」 男の恋人など、恥さらしは、聞き入れる訳にはいかなかった 榊清四郎は飲んでいるグラスを、榊原の立っている壁に向かってわさと投げつけ激怒した 「ふざけるな! 忙しいこの私を呼び寄せたのは、そんな茶番を見せる為でした…なんて言うのか!!」 「茶番かどうかは知りませんが、自分の恋人を紹介する為に来ていただいたのは事実です。」 貴様! 殴りかかるうとした時、榊原の母親であり清四郎の妻の北城真矢が 「辞めなさい!」と制止した 兄である九条笙も黙っていられないと…口を開く 「伊織は何時も、突然過ぎるんですよ… 初めまして榊原笙と言います」 軽くお辞儀をされて、康太も頭を下げた 「榊原真矢です……伊織の母です」 優しく、ごめんなさいね…と言われ、康太は首をふった 「演技で納得行かないと当たり散らす… 昔と全然変わっていませんね 相変わらずの暴君だ!」 榊原は言い捨てた 「なにっ!役者でもないお前に何が解る!」 「解りたくもないです 僕は貴方の様な自分勝手な役者を見るたびに、虫酸が走るんです」 「勝手な事を言うな!」 「親子の縁を切るますか? 別に構いませんよ? 僕は僕で生きて行く為に、康太を貴方達に紹介したんです 康太を紹介したのは、僕のケジメです」 榊原… 火に油を注いだら ダメだってば 康太は、目の前で殴りかかろうとしている、榊清四郎を、見ていた まるでTVを見ているような迫力 拳は榊原目かけて飛んで行く 康太はその拳の前に出て、榊原を護った お願いです…… 彼を傷付けないで下さい お願いだから…… 彼にあんな顔をさせないで 榊原の頬に拳がヒットする前に 康太が姿を割り込ませた 拳は康太の左のこめかみにヒットした 康太は意識を失った 榊清四郎は呆然としていた 自分は一体何をしてしまったんだろう… 頭に血が昇っていた 親を見下す生意気な息子を殴ろうとした 親には何も言わず、突然寮に入ったのは中学の頃 以来、家には寄り付かず、何を考えているか、解らなかった あんな中学生の様な子供を…恋人だと言った しかも男の子を、恋人だと紹介されて、許せる筈などないのだ… だけど殴る必要はなかった 頭に血が昇って、抑えられなかった 思えば、父親らしい事なんて、何一つしてあげなかった 頭の中には何時も演じる役があって、その役に入りきる為に、その役になりきった 私は…父親ではなかったのだ… 伊織の恋人は、真っ直ぐに人を見る、純粋な穢れを知らない瞳をしていた まるで全てを見透かされそうで、怖かった 曲がってなくて…素直で、人々を魅了する魅力を秘めていた 反対するつもりじゃなかった 上手く演じれない事に苛立ちを抑えられなかった 私は…あの瞳が怖かったのだ。 伊織や笙、妻に何一つしてやらなかった 何時しか家族は私から離れて行き、後悔した時には、何もかもが遅かった 怖かった 何も残っていない空っぽな人間を見られたくはなかった 息子に振り上げた拳の先に、あの少年を見付けた時は、頭から血が一気に引いたら 彼は躊躇する事なく、拳の前に出て伊織を庇った 彼は拳が見えていたのた だから、瞬間的に伊織の前に身を投げなす事が出来たのだ 彼は愛する人の為なら、その身をも差しだせれる勇気を秘めている 私には出来ない…… 目の前で、妻や子供が危ない目に合っていたとしても、飛びだせれる勇気は…ないだろう 私の演技に足らないものは、ああ言う真摯な態度だったのかも知れない 誰かを命をかけて護る …………そんな気持ち忘れてしまっていた 家族でさえ蔑ろにしてしまった… 修復しょうと近付いても……… もう距離を埋められない位、家族はバラバラになってしまっていた それも、役の為には仕方がない事だ……… と、自分を誤魔化し、現実を見ず来るしかなかった 私は…無垢な魂を傷付けた 榊清四郎は頭を抱えて蹲った 涙が止まらない あぁ 最近、私は泣いたことがなかった 演技で泣いたフリは沢山した 本気で泣かなくても、私の演技なら人々に感動を与えられる なんて傲っていたのだ だから、最近は思った演技が出来なかった 小手先だけで、観たものに感動を与えよう… なんて傲った人間だったんだ 何で私は気付かなかったんだ… 長い役者人生の中で感覚が麻痺してしまっていたんだろうか… あの子に詫びなければ 私は何処かで…あの子の瞳に見透かされそうで怖かったのかも知れない あの子は許してくれるだろうか… 榊原伊織は、父親に殴られ意識を失った康太を、母親が借りてくれたホテルの別室に連れて来ていた 父親に殴られる事は良くあった わざと父親の神経を逆撫でしている事を言うから、その都度殴られた 殴るなら殴らせてやるつもりだった 殴らせた後で文句もいえなくさせてやるつもりだった 何故康太が……… 彼の行動力を甘くみた自分の失態だ ベットに寝かせた康太の額を撫でた そして康太の手を取り口付けた ただの脳震盪じゃないかも…… と、心配しまくる榊原に、笙は古くから付き合いのある医者を呼んでくれた 「ただの脳震盪だと思うから、冷やして寝かしといて 起きて吐き気や目眩があるなら、病院に連れて来てください! 検査するから!」 と、言い残し医者は帰って行った 脳震盪と言われ、胸を撫で下ろした 榊原は康太の額にアイスノンを乗せ冷した 多分明日には痣になるだろう 「伊織、可愛い子ね、康太くん」 母が康太の顔を見て言う 「何か永遠の少年って感じ…貴方が惹かれる筈ね 貴方に無いものを沢山持ってる そんな所に惹かれたのね 母さんは賛成よ 貴方にそんな顔をさせれるのは康太くんしかいないんでしょうね……」 母は榊原の変わった姿に総てが納得が出来たみたいだった 兄の笙は、何時も冷静沈着な弟が憔悴しきって、不安な顔をしている姿を…… 生まれて初めて目にした こんな顔も出来るんだ…って妙に安心した 「俺さぁ伊織…お前が大嫌いだったよ 何考えてるのか、解らなかった 家族と距離を取り、勝手に寮に入ったお前が許せなかった だけど、今なら解るよ 今ならお前が見える 俺も…お前の上部しか見ていなかったのかもな 今はお前が見えてるよ お前をこんなに変えたのは彼なんだね」 恋人を心配して泣く事が出来るだなんて…… 変えさせたのは康太だろう 「必死なんだな伊織 そんなお前の顔、始めて見た…安心した」 笙は弟の頭をクシャッと撫でた 完璧な弟の、人間臭い部分に共感がわく 完璧な弟の求めたものは、自分と正反対の少年だった 「俺も母さんと同様賛成だ!」 兄は優しく伊織を見ていた 「兄さんとこんな話をするのは初めてですね 僕は役者には向かないと自覚した時から家族とは距離を取って来ました 役者の道に進んだ兄さんが羨ましくもあり憎くもあった どうせ皆と同じ道にいけないなら……と 距離を取りました 僕は拗ねてたんですよ 拗ねて距離を取っていた そんな自分に気付かせてくれたのは、彼です」 「お前がそんな風に思っているなんて思いもしなかったよ 僕達は家族の何を見てきたんでしょうかね… 僕はお前の本心が見抜けなかった お前は弟だよ…僕の」 「兄さん…」 榊原は泣きそうだった 兄とそんな話は今まで一度もした事なかったから… 泣きそうなのを誤魔化すように、榊原は康太の顔のアイスノンで冷やした 「冷てぇよ伊織!あー痛てぇ!」 伊織が、康太を冷やしすぎたから、余りの冷たさに康太は目を醒ました 「康太…康太……痛いですか? 辛いですか? 僕はどうしたら良い…? 変われない自分が歯痒いです……」 榊原は本当に泣いていた 学校では鬼で有名にのに… 康太は自分の服の裾を持つと、榊原の顔を拭いた 「泣くな伊織……」 自分の服が濡れるのも構わず、康太は榊原の顔をゴシゴシ拭いた そして、じっと自分を見る人間に気が付いた 九条笙…彼がじっと康太の顔を見ていた まるで懐かしい人を見るかのように… 「伊織、病人に気を使わせたらダメだろ? 痛い所はあるかな?気分はどう?」 笙の声に聞き覚えがあった 幼い頃に聞いた懐かしい声… 「顔が痛てぇ…」 そのままだった 「康太が殴られる必要はなかったのに…」 「オレは伊織が殴られる方が嫌だ!」 「康太…」 榊原は康太を抱き締め泣いた 「康太…僕は飛鳥井の家の方々が、賛成してくれたから……… 僕も飛鳥井家の方々の気持ちにも添いたかった …でも康太にこんな怪我を負わすなんて…」 榊原は悔しそうに唇を噛んだ 「伊織…飛鳥井の家族に逢ったんだ 良かったな賛成してもらえて… しかし康太の恋人が伊織だなんて、僕は蒼太に殺されかねないな」 笙は肩を竦めて笑った 「蒼太さんとは同級生だった…とか」 榊原は、兄も桜林の出だったな…と、思い出す 「そう!卒業まで虐められたな…… 彼の良く言っていた手のかかる四男坊って…」 「おう!オレだ!やっぱりシーちゃんか」 笙は懐かしい目をした 紹介された時は小学生になるかならないかの幼い弟に蒼太は手を焼き 愛しくて堪らないって感じで頬にキスしていた だから笙は兄弟と仲よくしたかったが、榊原はすでに笙と距離を取っていたから…… 羨ましく感じていたのを思い出していた 「大きくなったんだな 始めて見た時はランドセル背負うか背負わないかだったな?」 兄が康太の少年時代を見ていたなんて! 許しがたい思いで兄を見ると嫌な顔をされた 「伊織…まさか僕に殺意を抱いてるんじやぁ…」 「解りましたか…」 榊原伊織……… 自分の弟は至極短絡的な部分も持ってる男だった 何時も澄まして我関せずの顔しか見ていなかった これからでも遅くないかも… 兄弟として生きて来なかった分、これからは兄弟として語り合えたら嬉しいと笙は思った 笙と伊織の兄弟喧嘩を他所に、北城真矢は康太の額に手をかけ微笑んだ 「康太くん、ごめんなさいね 主人を許してね…あの人は役者馬鹿なの 頭の中には役の事しかない… 今頃後悔しているかも知れない 本当にごめんなさいね…」 本当にすまなそうに、康太に頭を下げた あぁ…この女性は、こうしてずっと夫を守って来たのだ 「気にしないで下さい うちの家は何かあると直ぐ殴るんで、殴られるのは慣れてっから、こん位平気です」 康太は心配などされたくはないのだ 康太の事で悩んでなんて欲しくないのだ 「本当は優しい人なのよ…」 北城真矢は夫を愛しているのだ 母親が康太に謝る姿を見て、笙も康太に謝った 「本当に悪かったね 父さんに変わって謝るよ 父さんは今、年末の時代劇スペシャルのドラマ撮影で頭が一杯なんだ…」 この人も父親を愛しているのだ そして理解しょうと、苦悩している 伊織も家族を愛してる だが、役者向きでない自分は家族の足手まといになると、距離を取った それもその筈、目の前に稀代の役者がいたら、越えられないと思うだろう 伊織は誰よりも、榊清四郎に似ているのだから… この家族は互いを思いながらもバラバラだ まるで壊されたジグソーパズルの様にバラバラだ 今、少しだけ形を作り始めているパズルを、かけ集めて嵌め込んで行ったら、榊原の想いは溶けて行くのに… 榊原は飛鳥井の両親や兄弟を羨ましそうに見ていた 康太は榊原の家族の話は聞いたことがない 言いたくないみたいだから、聞かなかったが… 誰よりも家族を欲しているのは…榊原だ。 笙は、康太に榊清四郎が、仕事で上手く演じれない…から、苛立っていた…と告げた 「若手の役者の勢いが止まらない…って 滅多に言わない愚痴を言ってたって… 父のマネージャーから、聞いた タイミングが悪かったんだ…今回は」 辛そうに、すまなさそうに…笙は話した 誰よりも父親の仕事を間近で見て来た笙でも、今回の父親は理解出来ないでいた… 「隼人が、そう言えば年末時代劇スペシャルの主演やるって言ってたな…それかな」 康太は思案して、呟いた その呟きを笙は聞き逃さなかった 「隼人って、一条隼人? あぁ彼も桜林でしたね 彼がその時代劇スペシャルの主演ですよ」 「主演かぁ!すげぇな…」 康太は自分の事の様に、嬉しそうに笑った 「伊織、近いうちに飛鳥井家の方々と挨拶しょう お前の大切な奴の家族だ 仲良くして行こう 伊織…これからはお前も、もっと俺達に何でも言ってくれ」 榊原は兄の大きさを垣間見た 「母さん、兄さん…… 僕が片意地張っていたから、悩ませてしまいましたね 今は貴方達の気持ちが解ります それは総て康太が僕に教えてくれた事です 康太が居なかったら僕はどうなっていたんでしょうか……… だから、離せないんです 離したくない! 取られたくない…… 誰にもやりたくない! 逃げたら…殺してしまうかも知れない位… 康太を無くしたら自我が崩壊する位 康太を愛してるんです…」 榊原の苦しい胸のうちを聞かされ、母は絶対に応援しなければ! 殺りかねないわ……… まさか自分の息子がゲイになるとは思っていなかったけど…… 案外芸能界もゲイは多い 幸せなら、それで良い 笙は運命だな と、思った 完璧な人間の完璧でない部分 人間臭くて情けなくて 唯一の弟 弟の応援をしてやりたいと思った バラバラの家族のピースが 今、カチャッと嵌め込まれて行った

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